第8話 豚はできる

 あたしも、お花も、無理だと納得したんだけど、なぜか千代に火がついた。


 「千代のぶーちゃん!できるようになるもん!」


 すごい勢いでお花を睨んでいる。


 「お嬢様。けっして私はけなしたわけでは…。」

 「ぶーちゃん!お庭でお稽古よ!」


 「ブヒ…。」

 え…。するのー。どうせ豚なんだし、あたしだらだら生きたいわー。で、次こそお姫様に生まれ変わるのー。




 じゃぶじゃぶ…。じゃぶじゃぶ…。

 タライに入れられている洗濯物をじゃぶじゃぶと踏みしめている。


 「ブヒ?」

 千代?これ多分、炊事じゃないわよー。


 「んんしょ。んんしょ。」


 「ブヒ♪」

 千代も一緒に楽しそうだから、いっかー。




 ぷるぷる…。ぷるぷる…。

 針を前足でつかんで裁縫している。


 「ッブ…!」

 千代?さすがに裁縫は無理じゃないかしら?!前足つりそう!!


 「おい。お花。千代は何してるんだ?」

 「実は…」

 「ふむふむ。なるほどな。」

 「も、申し訳ありません。」

 「いや。はじめて千代がやる気になってるんだ、便乗してお花に花嫁修業をさせるぞ。」

 にやり。

 「え?お嬢様がお輿入れ?」

 「バカヤロー!俺の目にかなった奴もいないのに千代を嫁にやるか!まったく!千代!千代!」

 「おっとー。なーに?」

 「おっとーも、千代のお稽古に協力して、先生を見繕ってやるぞ。」

 「わ!本当?!ありがとーおっとー!」


 抱きつこうと手を伸ばす千代にしゃがんで抱きしめてやる藤兵衛とうべえ


 「ブヒッ…?!」

 あらいやだわ?!寒気?!タライの水で冷えちゃったかしら?



 洗濯、炊事、裁縫、掃除、習字、算術…あたし!豚よ?!

 10日目に千代とタライでじゃぶじゃぶと洗濯をしていると。


 てってれー♪

 ――洗濯スキルLV1を取得しました。スキル取得により生活魔法が派生し、ブローを取得しました。


 ピタッと止まるあたしと千代。二人の目が合い同時に行使する。


 「ブロー!」「ブヒッ!」

 豚の顔を流れる温かい風、千代の髪をなびかせる暖かい風。気づけば二人は笑いあっていた。


 しかし、豚は気づいた。これ!ドライヤーじゃない?あたし髪ないんですけど!!

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