音楽室のピアノは君に

春原 色七

音楽室のピアノは君に

僕の学校の音楽室は、校舎3階の一番奥にある。


吹奏楽部の部員たちはコンクールや合宿のたびに音楽室の隣にある準備室から大きい楽器を運び出すことになるので、音楽室が最上階にあると大変だと愚痴をこぼしていた。そのほかの生徒にとっては「誰もいない音楽室からピアノの音がする」というベタすぎる噂がある程度で、ほとんど近づく人はいなかった。


僕は音楽室が好きだ。誰もこないから。


授業が終わり、廊下が一気に騒がしくなる。校庭に走っていく男子の足音、隣のクラスの友人と大きな声でおしゃべりをする女子の声。音楽室の噂があることを知ったのも、こうして女子が大きな声でしゃべっていたからだった。僕は今日もいつも通り、それを音楽室から聞いている。


最近僕は、授業には出席していない。勉強は好きになれないし、仲のいい友達も特にいなかった。教室という狭い四角の中に同じ年齢の30人が等間隔に座っている状況は、至って普通のはずなのに、僕には異常に思えて仕方がなかった。小学生のころも不登校ぎみだったので、僕は学校生活というものに向いていないのだと思う。最初こそ「授業に出ろ」とか、「何か悩みでもあるのか」とか、担任や学級委員があれこれ言ってきたものの、最近は諦められたのか何ひとつ言われなくなった。


僕はそれを良いことに音楽室に入り浸り、ピアノを弾いて過ごしている。


母親がピアニストだったこともあり、僕は物心ついた時にはすでにピアノを弾いていた。よくある自分の子どもに厳しく指導するようなタイプの母ではなかったので、僕はピアノがそんなに上手くない。上手くないけど、弾くこと自体は好きだった。


音楽室の例の噂があるのはたぶん、というか十中八九僕のせいだろう。誰もいない音楽室からピアノの音が、なんてベタすぎて誰もが嘘だとわかるような話がいつまでも生徒の間で広まり続けるのは、本当にピアノの音がしているからなのだ。もともと誰も寄り付かない音楽室からピアノの音が聞こえるがために、音楽室はさらに避けられるようになった。


開け放った窓から、運動部の掛け声がよく聞こえる。

黄色いカーテンが風に揺られている。

音楽室のピアノは、少し調律の狂ったグランドピアノだ。

僕はピアノ椅子に座り直し、鍵盤の蓋を開けた。

白と黒が規則的に並ぶそれは、見ているだけで美しいと思う。

両手を鍵盤にそっと乗せ、指に力を入れた。


ちょうどそのとき、カラカラカラとドアを開ける音がして、振り向いてみると女子生徒が立っていた。


その女子生徒は僕の方をちらりと見ると、空いていた窓の方へと歩いて行った。

窓枠に頬杖をついて、ぼんやり外を眺めている。

長い髪が夕日に照らされて、暖かい茶色に見えた。


誰なんだこの女、と僕は怒りに近い感情だった。

今まで誰かが放課後、音楽室に来るなんてことはなかった。

同級生たちが閉じ込められている四角とは違う、音楽室は僕だけの領域だと思っていたのに。


僕はピアノ椅子から彼女の背中を見つめた。

彼女はぴくりとも動かず、それから暗くなるまで外を眺めていた。



それからというもの、彼女は毎日放課後になると音楽室にやってくるようになった。


僕はとても迷惑していた。僕はピアノを弾くのは好きだけど、目の前の知らない人間に聞かせられるほど上手くはないのだ。自信もない。音楽室から漏れた音を聞かれるくらいじゃ上手いも下手もわからないだろうけど、同じ教室内に人がいるとなると話は別である。出来れば聞かれたくないので、彼女が音楽室にいる時はピアノは弾かないようにしている。僕の方が前から音楽室にいたのに、あとから来たこの女のせいでピアノが弾きづらくて我慢しているのはおかしいだろ、我が物顔で毎日毎日なんなんだこの女は、とめちゃくちゃなことを考えては、僕の気持ちは弾きたいと弾きたくないの2つを行ったり来たりしている。


カラカラとドアの開く音がして、今日も彼女がやって来る。

彼女はいつも通り、窓から外を眺めている。


彼女についてわかったことはごくわずかだ。


名前は『川合カワイ 優香ユウカ』というらしい。名札に書いてあったので間違いない。

そして僕の1つ上の学年であること。僕は上履きの色が青色なのに対して、彼女は赤を履いている。


優香は放課後になると音楽室にやって来て、手前から4番目の窓からひたすら外を眺めて、暗くなったら帰っていく。


その間、僕達は会話したこともなければ、目が合ったことすらなかった。優香はいつも僕やピアノには目もくれず、窓辺へ一直線だ。僕は自分が空気になったような気持ちだった。でも、不思議と嫌ではない。優香は僕に構うことは一切なかったけど、毎日音楽室にいる僕に驚いたり、不審がる様子もなかった。声をかけてくることもない。僕に干渉してこない優香の態度は、居心地の悪いものではなかった。


優香は毎日何をそんなに熱心に見つめているのだろう。少しだけ興味が湧いた。僕はピアノ椅子に座ったまま、姿勢と首を伸ばして窓の外に目をやる。音楽室の窓は校庭の方を向いていて、そこには部活動に励む生徒たちがたくさんいた。下校していく生徒もいる。ごく普通の放課後の風景だ。僕には優香がどうして毎日これを見ているのか、全くわからなかった。


この場所からでは優香の後ろ姿しか見えない。

優香はどんな顔をしてこの風景を見ているのだろう。



今日は優香がまだ姿を見せていない。今まであんなに毎日欠かさず来ていたのに、どうしたのだろう。もう授業は終わっているはずの時間で、廊下から聞こえる生徒の声も、時間が過ぎるとともにまばらになっていく。


僕は自分が優香を待っていることに気づいた。最初は自分の領域に突然現れた侵入者として嫌悪感すら抱いていたのに、いつの間にか放課後になったら優香が音楽室に来るということが当たり前のようになっていたのだ。朝になったら日が登り、夜になったら沈むように。


初めて優香が音楽室に来たのはいつだっただろう。あの日からおそらく数週間しか経っていない。それなのに僕の中でここまで優香の存在が大きくなっていたことに、僕自身とても驚いている。気持ち悪ささえ感じる。僕がひとり音楽室で過ごしていた間は、変化や刺激というものはほとんどなく、世界から切り離されている感覚だった。それが好きでもあったのだ。そんな中に突然現れた優香が僕の中で存在感を増していくのは、もしかしたらごく自然なことなのかもしれない。


窓に雨粒がぶつかっては落ちていく。

雨だから優香は来ないのだろうか。

それとももう二度とここには来ないのだろうか。


そうだ、もう二度と会えないことだってあり得るのだ。これからも変わらず毎日ここへ来る保証なんてどこにもない。突然やってきたのだから、突然来なくなることだってある。それが今日だったのかもしれない。そうだとしたらまたもとの僕だけの音楽室に戻る。それだけのことだ。


『寂しい』という言葉が頭に浮かんで、すぐに掻き消す。違う。あんなやつ早くいなくなればいいと思っていたじゃないか。もう来ないなら万々歳だ。好きな時に好きな曲を弾ける。夕日に透ける色素の薄い髪も、髪が風に吹かれた時だけ見える細い首も、別に知らなくたって今まで楽しく僕だけの世界を守って来られたのだから。


ピアノを弾こう。

鍵盤に僕の指が乗り、沈む。

ショパンの『雨だれ』。

一人の音楽室は嫌に音が響いた。


* 


雨は明け方にようやく上がった。

その後は一日まるでよくできた絵画のように綺麗に晴れ渡っていた。


今日の日差しは僕には眩しすぎるらしい。空の眩しさに思わず目を閉じると、薄いまぶたに通った血管が太陽の光で透けて見える気がした。


僕は太陽の光から隠れたくて、グランドピアノの下に逃げ込んだ。

そこで手足を投げ出し、仰向けになる。

ここなら太陽の影になって昼寝するにはちょうどいい。

床が硬いのが難点だけど、ひんやりして気持ちが良いので気にしないことにする。

僕は目を閉じた。今度はまぶたの血管が透けることもない。


どれくらい眠っただろう。目を覚ますと視界は黒い天井でいっぱいだった。グランドピアノの下で寝ていたのだから当たり前か。仰向けだった僕はうつ伏せに体制を変える。視界がぐるんと180度回転した。そのままほふく前進の要領でピアノの下から出ようと顔を上げると、窓辺に赤い上履きと、上履きから上に伸びる白い足が見えた。


優香だ。


心臓がなぜかどきどきと大きな音を立て、呼吸も浅くなる。てっきりもうここへは来ないものだと思い込んでいた。僕はまたひとりぼっちに戻ったのだ、寂しくなんかない、一人で気ままに過ごせるのは良いことだと自分に言い聞かせていたのに、優香はまた現れた。期待するのはやめようと決めたはずだったのに、優香の姿をまた見られたことにどこか安堵し、胸が高鳴る自分がいた。やっぱり単に雨の日は来ないということだったのだろうか。


急いでピアノの下から這い出て立ち上がると、窓枠に肘をつき長い髪を風になびかせながら外を見つめる優香がいた。


僕は思わずその後ろ姿に近づいていた。


優香は僕より少しだけ背が高い。


僕は唾を飲み込み、小さく咳払いをした。

声の出し方を忘れてしまったような気すらしてくる。


「あの、」


僕の喉から少し掠れた声が出た。

優香の反応はない。


「ねえ、いつも何を見ているの」


優香は答えることも、振り向くことすらせず、ただ外を見つめてばかりいた。


僕も優香の後ろに立ち尽くしたまま、ぼんやり彼女の髪を眺めていた。


しばらくそうして風に揺れる髪を見ているうちに、僕はふと思いついた。

ピアノに近寄り、なぜか少し震える人差し指で白い鍵盤のひとつを押した。ドの音がやけに長く響く。優香はまるでずっとそこにある人形のように、微動だにしない。


川合カワイ 優香ユウカ。僕のひとつ先輩。長くて色素の薄い髪。白くて華奢だけど、僕よりほんの少しだけ背が高い。放課後になると音楽室にやってきて、日が沈むまで窓から外を眺める。雨の日は来ない。


そしてどうやら、耳が聞こえない。


僕はその日から、優香が音楽室にいる間もピアノを弾くようになった。だって彼女にはこの音が聞こえていないのだ。最初は意図的に無視しているのかとも思ったが、何度話しかけても突然ピアノを鳴らしても、優香の反応が返ってくることは一度もなかった。聞こえないならミスタッチを気にする必要はない。僕は優香の耳が聞こえないのをいいことに、一日中ピアノを弾き続けた。さらに調子に乗った僕は、聞こえていないとわかっていながら、優香に話しかけたりしている。


「優香、今日は何を弾こうか」


当然答えが返ってくることはない。


何を弾こうかと尋ねておきながら、僕の中ではもう曲目は決まっている。

ドビュッシーの『亜麻色の髪の乙女』。

ここ数日、この曲ばかり弾いているような気がする。

この曲はまるで優香だ。

繊細で柔らかで可憐、それでいてどこか切ない、太陽の匂いがしそうなメロディ。


何度も弾いているせいで、この曲ばかり上達してしまった。


この曲を弾いている時だけ、唯一僕は自分の音を誰かに聞いて欲しいと思う。



その日もいつも通り、優香は夕方になると音楽室にやってきて、いつもと同じ窓からいつものように外を眺めていた。だから僕も、今日はいい天気だねとか、何を弾こうかなとか、どうでもいいことを呟きながら、また変ト長調のその曲を弾く。


僕は一体何をしているのだろう。

毎日聞こえない人に向けて同じ曲を弾いて。

もう目をつむっても弾けるようになってしまったこの曲は、これまでもこれからも、音楽室の亜麻色の髪の乙女に届くことはずっとないのだ。


僕は優香としか人との繋がりがない。といっても、その優香とも繋がりとは呼べないような薄く薄い関わりで、僕は気付けば優香のことばかり考えているのに当の優香はただ窓の外を見つめるだけだ。それにどうしようもなく腹が立つ。その目になんてことのない校庭の景色を映してばかりいないで、たまには僕の方を見てほしい。ピアノを聞いてほしいと思うのは無理な願いかもしれないけど、少しくらいこっちを向いてくれたっていいじゃないか。


ちょっとした怒りをそのままピアノにぶつけてみた。楽譜の強弱記号を無視して力任せに弾いてみる。繊細なメロディに不釣り合いな乱暴な音も、優香の耳には届かない。


「ちょっと!」


突然大きな声とともに音楽室のドアが開いた。

思わず音が止まる。僕は驚いてドアの方を振り返った。


でもその音より驚いたのは優香も同じ方を振り向いていたことだ。


なぜ?


耳が聞こえない代わりに他の感覚が鋭かったりするのだろうか。

確かにそういう話は聞いたことがあるような気がするが、これまで僕の存在に徹底的に無反応だっただけに疑問を感じてしまう。


混乱する僕をよそに、ショートカットの女子生徒はずかずかと音楽室に入ってきた。

よく日焼けした肌に、短くて黒い髪、長めの丈のスカートから筋肉のついたふくらはぎが伸びる。彼女は優香と同じ、赤色の上履きを履いていた。


ショートカットの彼女は、僕と目があうなり大きな目をさらに大きく見開いて、すぐに目を逸らした。


「ちょっと優香、こんなとこ来ない方がいいって言ったじゃん!」


そういってショートカットが優香の腕を弾く。


「え?で、でも…」


それが、僕が初めて聞いた優香の声だった。

想像より少しだけ低く、掠れた声だった。


2人はごく普通にやり取りをしている。

優香の耳は聞こえないわけではないのだろうか。

僕は呆気にとられて、ただ腕を引かれて音楽室を出て行く優香を見ているだけだった。


その時優香の手から、白いものが滑り落ちるのが見えた。


優香はあっと小さく声を上げたが、その声はショートカットには届かなかったようで、引きずられるようにして音楽室から姿を消した。


僕はその白に近づいて、手に取ってみる。


それは封筒だった。よく見ると、白地に小さな花のイラストが描かれている。宛名は書かれていない。封筒に描かれた花と同じデザインのシールを丁寧に剥がし、中からそっと便箋を取り出す。目を通すと、優香が書いた手紙のようだった。



突然こんなお手紙を渡してごめんなさい。

3年3組の、川合 優香です。

単刀直入に言います。君が好きです。

ずっと君を音楽室で見ていました。

話したこともないのにいきなりこんな手紙、困るかな。

君は私のことなんて全然何とも思ってなさそうだけど、

私はいつもかっこいいなあって思っていました。

お友達からでもいいので、

よかったら電話とかラインとかしたいです。



そのあとに、070で始まる11桁の数字と十数文字のアルファベットが書き添えられ、最後に『川合優香より』と書かれていた。


丸みを帯びた全体的に大きめな文字と、あっけらかんとした文章に、優香の人柄を感じる。

なるほど優香はこんな文章を書くのだなあと、漠然と思った。

僕は優香のことを何も知らない。


さてこの手紙は誰に宛てて書かれたものなのだろう。

窓から見ていた先にいた人?それとも。


心臓がばくばく音を立て、呼吸が浅くなる。手紙を持つ指先が少しずつ冷えてくるのが自分でもわかった。

優香の耳は聞こえている?僕の音にも声にも無反応だった理由は?そしてこの手紙は誰に渡すつもりだった?僕が今まで見てきた優香という人間は一体何だったのか?

頭がぐちゃぐちゃだ。思考が全然まとまらない。ドキドキしすぎて頭がくらくらし、吐き気すらする。


ああ、こんなときにはピアノを弾こう。


緊張のような、何とも言い難い気持ち悪さでかじかむ指を無理やり動かし、僕は音を紡いだ。

今日はショパンの『幻想即興曲』。

早い指使いで頭の中を真っ白にしたい。

勢いよくこの曲を弾くことで、気持ちの悪い胸のざわめきを忘れようと、僕はひたすらに指を動かした。


曲に没頭していると、僕の隣の空気がふわりと動く感覚がした。

見ると、さっきのショートカットの女子生徒がまっすぐ僕を見ている。


「うわっ、びっくりした」


僕は指を止め、「なんですか」と尋ねてみる。大きくて黒い瞳は揺らぐことなく、僕の姿を映し続けている。


「音楽室の幽霊さん」


『誰もいないはずの音楽室からピアノの音が聞こえる』

僕は自分がピアノを弾くせいで音楽室にまつわる噂が生まれてしまったのを思い出した。面と向かって幽霊と呼ばれるのは初めてで、反射的に「はあ」と返事をしてしまう。ショートカットの女子生徒は優香がいつも外を見ていた窓へと近寄ると、そのまま話を続けた。


「優香には、あなたの姿も見えていないし、音も聞こえていないと思う」


夕日を背にして立つ彼女の表情は、こちらを向いているのに逆光でよくわからない。

心地の悪い沈黙。風にカーテンが揺られ、音楽室のほこりを巻き上げた。


「あなたはもうとっくに死んでるの。幽霊なんだよ」


その言葉を聞いた途端、激しい頭痛に襲われる。

僕が、死んでいる?

僕はいつからここにいる?

不登校気味だった小学生のころ。狭い教室に閉じ込められる異常な違和感。

「授業に出ろ」「悩みでもあるのか」という担任教師の声。

最後に授業を受けたのはいつだ?最後に家族と話したのは?

記憶を深く辿ろうとすればするほど、水に溺れたみたいに息ができない。

目の前がちかちかして、僕はピアノの鍵盤に突っ伏した。

耳元でたくさんの音が一斉に鳴る。


大きく響く不協和音の中、視界の片隅にショートカットの女が優香の手紙を持って音楽室を出て行くのが見えた。


僕が優香と会うことはこれから先もうないだろうと、僕は直感的にそう思った。



びりびりに破かれた楽譜。グランドピアノのふたに挟まれ腫れ上がった指。薄ら笑いの同級生たち。音楽室の窓を飛び越え、空を飛ぶような爽快感と共に自分の体が風を切って落下する感覚。


激しい頭痛の中フラッシュバックするように思い浮かんだ断片的な記憶をつなぎ合わせて、僕はいじめを苦に自殺したらしいという結論に行き着いた。


自分が死んでいることにも気付かないなんて、僕はなんて馬鹿なのだ。優香への思いも、誰かに見られていたらきっとものすごく間抜けだったに違いない。一部の人間にしか姿の見えない幽霊で、ある意味よかったかもしれないとすら思った。


優香はあれ以来、音楽室には来ていない。

優香はいつも何を見ていたのか、僕は知りたくて、手前から4番目の窓の前に立ち、外を見る。


妙な既視感と高揚感が僕を駆け巡った。ああ、僕もここからだったのか。


外はなんの変哲もない放課後の風景。そろそろ日が落ちる時間ということもあり、大体の部は活動を終え大勢の生徒たちが下校していく。


その中に、亜麻色の長い髪を見つけた。


優香の白い指が、サッカー部のよく日焼けした指と絡まる。


ゆっくり目を閉じ、視界が真っ暗になる。

グランドピアノの下で眠った、あのときのように。

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