エイプリルフール

ばね

空に堕ちた銀色の八つ橋

今日は2019年4月1日だ。

つまりエイプリルフールということで、午前中の間であれば他愛もない嘘をついて許される一年で唯一の日だと言える。


だから、そんな日だからこそあえて真実を語ろう。

これは3億7890万年前にユーテンソプロン人が(彼らが高度な文明の発達の末に進化したウサギに滅ぼされたことはあまりに有名だろう)とある壁画に残した落書きに端を発する。

夢を見る樹の逸話を聞いたことは?七色の毛を持つヒラタクワガタについては?

そう、ほとんどの人が知らないだろう。だが私は知っている。


私がそれを知ったのは、いつもの散歩道でジョンとすれ違った時のことだ。

ジョンは賢い。3歳のゴールデンレトリバーでありながらほとんどの人類より多くのことを知っている。

彼はすれ違いざま私に囁いた。「黄金色のニーソプララは果たして我々の味方たり得るかね」全くもってジョンの慧眼にはいつも驚かされる。

果たしてこの地球上の生命体のうちどれほどが奴らの危険性に気づいていることか!


杉並木を歩きながら私は塾考する。

心地よい風が頬を撫で、アイスクリームの香りが鼻孔をくすぐっても、夜に現れる大きなクマノミが一体どれほど我々の胸を踊らせてくれるものか。

この思考には一定の意味が生まれている。

つまり、有史以来君たち読者が信じ続けてきた人間の理性の根源に根ざすものを蝕んでいるのは、やはり同じく人間の思考であるという証左に他ならないからだ。

もっとあるはずだ。もっと冒涜的な何か。猫の忍者に匹敵する米びつの中に住む小さな姫君のような愛らしく破滅的な何かが。


そう、真実の話が途中だった。

この地球上で、我々人類はいかにも上は上であり下は下であるということをまるで当然のことのように我が物顔で歩きおおせているが、果たしてその事実を担保する宇宙的な摂理はどこにあるというのであろうか。

上は下かもしれず下はやはり下であるのかもしれない。そうなると上は存在せず下のみが我々の足元を客観的かつ理論的にたゆたっていることになるのではないか。


あるいはこうだ。

空に浮かぶ雲がクジラのように見えるからといって、本当にクジラではないと証明できるものがどこかにいるだろうか。マルビシアドでもあるまいに。


そうして私は銀色の八つ橋を空に解き放った。

彼らは空に堕ちていく。

しかし上に落ちるのか下に落ちるのかは未だ判然としない。


ぬらぬらとした光沢を帯びた眼差しがカーブミラーからこちらをのぞいている。

きっと君たちは一生気付かないのだろう。


私がいくらここで警鐘を鳴らそうとも。

提示された真実から目を背けて生きていく。

まるでおとぎ話だ。我々も君も。


どうせ信じるものなどいないのだから、エイプリルフールの与太話ででもあるかのようにここへ密かに記しておく。


ひたすらな君たちへのアイとともに。

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