第6話 依頼

 

リンドブルム王国。

 この世界でも一番魔法の技術、能力を重視する王国。武力のほとんどが魔力値の高い者で構成された魔導兵であり、王国のほとんどが魔法で成立っている。それは魔導兵のような武力を始め、地位や生活習慣、流通に至るまでありとあらゆるものだ。

 街灯の灯りも自立した光魔法がメンテナンス無しで国の街を照らし、水や植物の成長まで魔法で管理されている。


 それ故にこの世界でも。優れた知識を有する魔法国家として他国から一目置かれていた。それと同時に魔法に対して絶対の信仰を持つ国としても有名だった。


 リオンはそんなこの国の制度までは教えられることなく十年という年月を騙されながら過ごしていたのだ。


 そんな魔法国家の王室。

 そこにある豪華な椅子に深々と腰掛け兵士からの報告を受けているのはクロメシア·リンドブルム。

 リオンの父にしてリンドブルム王国の王だ。


「国王陛下……恐れながら申し上げます。我々はリオン様を取り逃がしました……」


 三人の兵士はクロメシアを前に深々と頭を下げた。


「役立たずの木偶め。早く森の捜索を行え、証言者はいるんだ。必ず森の中にいる」


「「「は!」」」


「お前たちも精々役に立て。俺はいつでもお前たちを殺すことができるのだからな」


 怒りを言葉には乗せていない。

 だが、それでもその冷酷な言葉は槍のように兵士たちの胸に突き刺さった。

 彼は人間ではない。

 国家のことを第一に考える。それ以外はただの道具であり消耗品としか思っていなかった。

 それを悟った兵士たちは震える手を必死に抑えながらその場から足早に去っていった。


(絶対に逃さないぞリオン……お前みたいな出来損ないが王国にいたこと自体を抹消してやる)


 そこにはリオンに今まで一度も見せたことのない歪んだ表情のクロメシアがいた。

 どこまでも黒く歪んだ心。それに比例するかのように顔はどんどん歪んでいく。


 しばらくしてようやく普段のクロメシアの顔へと戻った。


(それよりも今は新たな王位継承者を産ませねば……リリナは美しかったがあれは駄目だ……)


 クロメシアにとってこの国の魔導兵もリリナもリオンも王国の価値を示すためのただの道具でしかなかった。

 であるからして代用も効く、クロメシアはそう考えている。


 王室に隣接する部屋の扉を開け中に入っていくクロメシア。


「旦那様、用事はお済みになったのですか?」


 そうクロメシアに声を掛けるのはリリナではない。

 そこに居たのはベッドに腰掛け付の布一枚を身に纏った別の女性。


「ああ、エレナ。仕事は終わった」


 そう言ってクロメシアは同じくベッドに上がり込んだ。


「我が愛しのエレナよ……この国に相応しい王を神から貰い受けようではないか」


 その言葉を最後に二つの影は薄暗い部屋で一つに重なった。






 私は今日も依頼を受注するべくギルドの扉を開いた。

 そしてまず私を出迎えてくれるのはギルドの人たちや冒険者の視線。


 ここ数ヶ月、もうすぐで一年が立つけど相変わらずこの視線には慣れない。


 リオンは浴びせられる視線に動揺しながらギルドの中へと入る。


 そして第二の出迎えは……


「リオンさん!!俺たちとパーティー組んでくれませんか!!」

「いや!!私たちのパーティーと!!」

「お前らどけ!!折れたちのパーティーはずっと前からリオンさんと交渉してたんだよ!」

「そんなこと言ったら私たちだって三ヶ月も前からお願いしてたんだからね!」


 というパーティーの勧誘。

 一体誰が広めたのか私は何故かこのルーブル王国でも有名な冒険者になっていた。


「ご、ごめんなさい。私パーティーには……」


 こうやって断るのが毎回。これでこりてくれるといいなんて希望を持つのももう辞めた。

 別に人との馴れ合いを拒んでるわけじゃなくて能力やレベル、それにリンドブルムという名前を誰にも知られたくなかったから。


 そして出迎えはまだ終わらない。

 一番厄介なのが……


「おい!『白銀』!!今日こそ決着をつけ………」


 といったところで私は剣をさやに収めたまま声を掛けてきた巨体の冒険者を叩いた。

 ちなみに剣は鞘に収めたままだけど物理能力で重力は倍にしてある。だから相当痛いはずなんだけど……


 そして目の前の冒険者は地面に倒れ気絶した。


 彼の名前はナドル。私に毎回勝負を挑んでくる厄介極まりない冒険者。このやり取りだってもう何十回繰り返したことか……


 それと『白銀』って言うのは私の二つ名?みたい。正直恥ずかしいからやめて欲しいのだけど気づいたときには広まってて……

 とき既に遅し。


 私はこんな面倒な三段階の出向を受けてようやくカウンターまでたどり着いた。

 カウンターのお姉さん、リンダの顔を引きつってる。


「リンダさん。今日も迷宮の依頼を受注したいのだけれど……」


 最近ではレベルの上昇ペースも遅くなり並の魔物じゃあレベルが上がらなくなった。故にリオンは毎日迷宮の最下層で特Aの魔物を倒してレベル上げをしてる。


「あ、リオンさん。その前にギルドマスターがお呼びですので案内しますね」


 と、今日はいつもと違う状況になった。普段であればそのままリンダさんに許可をもらって迷宮に行くのだけど…… 

 ギルドマスターが私に何のようだろう。

 私もギルドマスターには直接合ったことがない。一応はこの国の代表だから無礼のないように……と考えていたらリオンさんの案内のもと執務室に案内された。


「失礼します。マスター、リオンさんを連れて参りました」


 そこに立っていたのは驚くことに高校生ぐらいの男子だった。この世界ではめったに見ない黒髪で日本人みたい。

 服装は真っ白な軍服のようなものを着ている。


「はい、お疲れ様」


 リオンさんは執務室を出ていきその場にはギルドマスターとリオンのみとなった。

 そして話を切り出したのはギルドマスターだ。


「あなたがリオンさんですか?」


「は、はい」


 私はこの国の代表ということもあり緊張で少しぎこちない返事になってしまった。


「お噂通り美しい方だ。『白銀』の名にふさわしいです。どうぞ腰掛けてください」


 と、なんだか私はむず痒く感じながらも促されるまま大きなソファーに腰掛けた。

 それを見てギルドマスターも私の向かい側のソファーに腰掛ける。


「あの……今日はどういったご要件でしょうか」


「ああ、実はあなたに特別に少し頼み事がありまして」


「頼み事?」


「はい。でもまぁ私からの依頼という形になるので勿論報酬金は出ますよ?それでお願いと言うのは僕の護衛です」


「ご、護衛ですか?」


「そう。一応僕もこの国の代表ですけど魔力値だってそんなに高くないんですよね。それに今回行く場所、人が多くて……」


 ギルドマスターは渋い表情を浮べる。


「それで今回行く場所というのは」


「『フリューレン』さ。リオンさんも知ってると思うけどフリューレンは今年で開国百年なんだよ。それにちなんで開国祭が開かれるのに僕も招待されたってわけ」


 フリューレンはこの世界でも余り国力が強くないごく新しく誕生した国家であることは私も知ってた。それに開国祭は大きなイベントで沢山の国の重鎮たちも招かれる。

 だから中立国のここ、ルーブル王国のギルドマスターも招かれて当然なのは分かるけど……


「どうして急に私にこんな頼みを?」


 するとギルドマスターは『いや〜』と少し躊躇いながら口にした。


「今までは僕の秘書ともう一人、ナドルって言う冒険者を護衛に付けてたんだけどね……」


「………あっ」


 私はその名前に聞き覚えがあった。

 ナドル、それはついさっきも私が気絶させた冒険者の名前だった。


 そういえばもう目が覚めた頃かな……って今はそれどころじゃないよね。


「リオンさん、ここ最近ナドルに絡まれてそれを全部返り討ちにしたでしょ?アレを見せられたらこちらもナドルの実力が心配になってきて……別にナドルは弱くないんだけどね。むしろ強いくらいだし」


 つまりは私のせいだった。

 毎日ナドルさんを返り討ちにしてたせいで私のことが噂になったのが原因だ。

 確かに私もギルドマスターの立場だったら不安に思う……


「それは……なんだかすみません」


 いろいろな意味を込めて私は謝罪した。


「いやいや!!別に気にしてないよ。こちらとしてももっと実力のある逸材を見つけることができたし、リオンさんに護衛をしてもらった方が安心だから……」


 確かにこれは私の責任だ……


 リオンは内心ナドルめ!っと思いながら責任を取るべく依頼を引き受けるのだった。


「分かりました。護衛の依頼、引き受けます」


「いいのかい?」


「はい……少なくとも私にも少し責任がありますから」


 今度からはナドルさんにもっと厳しく接しよう……

 リオンは心にそう誓った。

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生まれ変わった私は魔法の世界で魔法が使えない 窯谷祥 @kama11

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