挑戦者の間

 『あら〜新婚さんかしら?仲良いのはよろしいけど山舐めちゃダメですよ』

これで今日4度目。これはすれ違う登山家に説教された回数だ。まぁそれも仕方ないのだろう。何せ俺はパーカー、ジャージに加えてトイレサンダルという近所のコンビニ行くようコスチュームだし、俺の隣ではぁーこんな人と結婚する訳ないじゃんと言わんばかりのため息を放つ閻魔は制服にローファーとこれまた日本で1番高い山、富士山を登るスタイルとは言えないだろう。

 『登山は初めてで。どんな格好すればいいのか分からなかったんですよ。でも脚力には自信があるので大丈夫です。ありがとうございます』

俺は今日4度目の粗末な言い訳をして。長くなりそうな登山家の説教を聞く前に逃げるように富士山を登る。

 

 『はぁー。やっと着きましたね。富士山5合目』

閻魔のこのため息は登るのに疲れたというより、登山家の説教に疲れたのだろう。何せあの後6回も説教され、計10回も説教されたのだ。しかも登山家というのはみんな同じ事言いがちなようで、『山を舐めるな』と何回言われた事か。危うく山舐めちゃダメ絶対と洗脳されるとこだった。

 『今日はもー遅いし、あの宿泊施設に泊まりましょう』

 『ちょっと待て!まだ夕方だし。まだ登るぞ』

俺は意気揚々宿泊施設に走ろうとした閻魔の腕を捕まえて止めた。

 『えーやだやだ疲れたー。体だけじゃなくて心も疲れたー。先輩の風でプテラノドンのいないフライング・ダイナソーやらされて、いざ富士山登ろうとしたら色んな人に説教されて、先輩何で風で富士山5合目まで行かなかったんですか?こんな密度の濃い1日過ごしたんです休んでもいいじゃないですか?』

 『付いてきたいって言ったのはお前だし。せっかくの富士山だから登りたいと言ったのもお前。全部自業自得。それでも休みたいっていうなら宿泊施設で休んで結構だ。じゃーな。短い間だったけどありがとうな』

俺は閻魔の早口に早口で返し富士山5合目を後にしようとした。

 『分かりました付いて行きます。行かせてください。だから私をこんな左も右も分からない所に置いて行かないでください』

富士山の出発点という事もあり人が多いのにも関わらずこの女は大声で叫び俺の腕に抱きついてきた。周りの登山家からの視線が痛い。

 『わかった。わかった。置いて行かないから今すぐどいてくれ』

 『ありがとうございますー。所で何で富士山何かに来たんですか?』

俺がはぁはぁ息を荒げているのも気にせず閻魔はキョトンとしながら重要なことを言った

 『そーいや話してなかったな。てかお前何も知らないのに付いてくなんてすごいなぁ』

俺は左手の平に右手を握り軽く当て頭の上にびっくりマークが出てきそうなジェスチャーで言った。

 『当たり前じゃないですかー♪先輩のためなら火の中水の中です♪』

 『それはどーも。でもこれから行くとこは火の中水の中より厳しいかもな。歩きながら説明するから付いて来い』

いつの間にか戻っているあざとい口調を気にせず、急かすような言葉使いで正規の道ではない森林に入って行った。

 

 『俺さー昨日町壊しちまったじゃん?だからみんなが住みやすい新しい山を作りたくて。山を作れるだいだらぼっちを訪ねようと思ったんだけど。めんどうな事にだいだらぼっちは富士山の頂上で寝てるから、頂上に行かないといけないんだよな。こんな大事な事を言うの遅れてごめんな』

 『それは良いんですけど。頂上行くのに何でこんな森林歩いてるんですか?虫がたくさんいてやなんですけど。飛んで行けば良いじゃないですか?』

閻魔は俺の謝罪をそんな事と言い虫が嫌なのかシッシッと手を忙しなく動かしている。

 『お前気付いていないのか?さっき妖怪にとって山は住みやすいって言ったよな?にも関わらず5合目に入ってから妖怪の気配がもうないだろ?』

 『そー言えば。どーして急にいなくなったんですか?』

俺は得意気に話を続ける。

 『だいだらぼっちは妖怪総会の1人でそのポジションを狙う妖怪もたくさんいる訳だ。だから自分に挑戦するに値する奴から見極めるため何重もの挑戦者の間が用意されてある。それを超えないとだいだらぼっちには会えないから飛んでは行けない。どの道を行っても挑戦者の間はあるが、わざわざ1番危ない挑戦者の間がある正規の道を行く道理はないだろ?』

 『先輩質問です!挑戦者の間はどーやって一般客と私たち見たいなのを見分けているんですか?あとどーして挑戦者の間の危なさが分かるんですか?』

閻魔は右手をピシッと上げながら言った。

 『俺たちみたいな妖怪の能力を使う奴には血みたいに妖力ってのが流れてるのは知ってるよな。挑戦者の間はそれを利用して妖力に反応して起動するようになってるんだ。あと何故挑戦者の間の危なさが分かるかと言うと挑戦の間も妖怪の能力で作ってるものだから妖力が流れていて、強い挑戦の間を作るには妖力がたくさん必要だから妖怪探す時みたい集中したら分かるぞ』

 『あ!ほんとですね♪てか目の前じゃないですか!?』

 『着いたな。まず1つ目の挑戦者の間だ』

俺は何だか左肩に重みを感じるような気がしながらもそれを気にせず、透明だが集中したら薄っすらと感じるでかい四角い部屋に俺たちは手を入れた。

 

 『6合目D地点。己の間。この挑戦者の間では今現在の挑戦者をコピーした泥人形を作ります。挑戦者はその泥人形と戦って勝ってもらいます。以上です。至って簡単何でだいだら様に挑戦しようとするアホでもわかりますよね。せいぜい頑張ってください』

思わず聞き入りそうになる妖艶な声だったが最後の感情だだ漏れの暴言で目が覚めた。

 『先輩♪私たち何でこんなボロクソ言われてるんですか?』

 『分からんが、この声入れてる奴は相当だいだらぼっちが好きみたいだな』

こんな他愛もない会話をしているとどういう原理か分からないが上から大量の泥が落ちてきた。床に広がる泥が徐々に集まり2人の人型になり、俺と閻魔のドッペルゲンガーが出来た。

 『よー初めましてだな、俺。いや無関係の人をたくさん殺した大量殺人犯と言うべきか?』

俺のドッペルゲンガーの第1声は最悪そのものだ。

 

 

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