自我

カキッーンカキッーン

大剣と釜がぶつかり合う甲高い音が路地裏に響き渡る。

 『オラッオラッ』

雄叫びを上げながら釜を振り回しているのは俺。ではなく閻魔ちゃんだ。

 『こんなん、ギャップ萌え……する訳ないやん!さっきまでと違いすぎだろ!』

思わずエサ関西弁でツッコミをしながら、やはり現実の女は信用ならんと再確認した俺であった。しかしそれとは反対に闘いは順調に進み前線で閻魔ちゃんがおとぎ話の死神が持っているような釜を振り回しそれを俺がサポートするという形になった。

 『クソ!二対一なんて聞いてないぞ!邪魔者に当たるだけでもハズレだって言うのに!二人いるなんて!』

神官のくせにthe三下みたいなセリフを吐き、防御のつもりなのか大剣を体の前で風車のように振り回している。

 『先輩♪サポートお願いね♪』

と言うと同時に閻魔ちゃんは向かい合う大剣使いの動きを全く気にせずに横を飛翔し、通り過ぎる。

 『風よ!おきろ!』

ホントはこんなセリフもいらないのだが雰囲気は重要だ。俺は右手を閻魔ちゃんの方に出しその瞬間、閻魔ちゃんの前に風の壁を作った。それを見るや閻魔ちゃんは空中ででんぐり返しをし体の向きを変える。そのまま風の壁を蹴り加速したまま大剣使いに釜ではなく手刀を食らわした。


 『先輩。何でこんな糞みたいな奴ら殺しちゃダメなんですか?』

さっきの大剣使いを足で踏みつけながら幼稚園児が何で夜にジュース飲んじゃダメなの?みたいなノリで閻魔ちゃんは言った。

 『だからさっきも言ったけど、殺したらこんな糞みたい奴らと同等になっちゃうだろ?まーこいつらも生きていく為にやってる事だし、糞だけど。だから人を殺しちゃダメだから』

ったくこの子の親は何を教えてるんだ?人殺しちゃダメなんて赤ちゃんでも知ってるぞ。まー俺もその点では人の事言えないからなー。この話はもうやめよう。俺は自問自答をやめ、頭を振り思考を巫女・神官狩りに切り替えた。

 

ピピッピピッ

俺の腕時計が鳴った。時計を覗くと針は十二時を指しいていた。

 『ふーお疲れさん。いつもより捗ったよ。ありがとう』

俺は軽く伸びをしながら言った

 『いえいえ。先輩もうお帰りになるんですか?』

全力を出してないのか、大して崩れてない制服を直しながら閻魔ちゃんは言った。

『俺は行くとこあるから。じゃ閻魔ちゃんまた明日ね』

『えっ?ちょっと待ってくださいよー』

俺は閻魔ちゃんと会話を強引に終わらせ、閻魔ちゃんのサポートに使った風の壁を自分の足元に作り逃げるように飛んだ。


『今日の被害はどんくらいだ?』

俺は自分の家であるボロアパートのベランダに軽やかに着陸し、いつも通りの点呼を始めた。点呼と言っても妖怪の代表を数人呼んで生存確認をするだけのいわゆる町内会みたいなものだ。

『今日はいつもの半分を切りましたよ!』

町内会に入って間もない新人の一つ目小僧がどこか作り笑いに見える引きつった笑顔で答えてくれた。

『ホントか!?でどのくらいだ?』

『53人です…』

これが現実だ。現状俺が(勝手に)統括しているこの町で巫女・神官と同等の力を持っている妖怪は数少ない。必然的にたくさんの妖怪が死ぬ。毎日あじわっているとういうのに一向に慣れる気配の無いこの痛みに苦しめられ、胸を押さえながらうずくまり自分の頭を自分で洗脳する。

『あいつらも自分が生きるためにやってるんだ。仕方ない』

ここまでがいつも通りの日常。

だがあたり前の日常なんてない。

日常はすぐにぶっ壊れる。

『ジバ犬も死にました』

こんな短い言葉の意味を理解するのに1時間もかかった。俺が今まで味わった事のない親友の死。


ポキッ!

俺の中の何かが折れる音がした。

『あいつらも自分が生きるため?みんな普通に暮らしたいだけなのに。何でそれを壊す仕事なんかあるんだ?おかしいだろ!こんな腐った世界ぶっ壊してやる!』

俺の自我は吹っ飛んだ。その瞬間さっきまで苦しかったのとは別の物理的な痛みが俺の胸をはしった。だが俺はそれを無視し右手を天に掲げた。

『照らせ。火の雨』

その時まだ夜の1時くらいだというのに開けっ放しの窓から火の光が入ってきた。

『俺の大切なもの以外いらない。あいつらも俺の日常を壊したんだ。報いを受けるのは当然だ!』

俺は上げている右手とは反対の左手でこの町の妖怪たちと集人を守る暴風雨の盾を作った。そして、天に掲げた右手を下におろした。

『降れ。火の雨』

その瞬間さっきまで空を照らしていた火が雨のように降ってきた。そこから町が焼け野原になるのにそう時間はかからなかった。


『ごめんみんな。これで町も無くなっちゃった。だからまた山を作ってもらうよ。多分俺はこれから巫女・神官の協会の奴らに指名手配されちゃうからもう帰ってこない。今までありがとう』

俺は焼け野原の残り火を、右手で雨を降して鎮火させ、左手で作っていた暴風雨の盾を解き、旅に出る荷造りをして部屋を出た。

『先輩♪準備手間かかりすぎです♪女の子ですか♪?』

このあざとい系の口調。俺の後を付いてきていたのか、閻魔が玄関の前に謎の笑顔でいた。

『お前死んでなかったのか?』

気が回らず閻魔の分の暴風雨の盾を作っていないかった事に後から気が付き、死んだと思っていたので素で驚いてしまった。やはりこの娘、底が知れない。

『先輩ひどいですね♪あんなんで死ぬ訳ないじゃないですかー♪私を見くびらないでくださいねー♪』

『じゃーな。元気で生きろよ』

普段なら可愛いと思えるぷんぷん頰を膨らませる顔も今の俺には何も感じない。俺は長くなりそうな話を強引に切り、即刻この場を立ち去ろうとした。

『え?一緒に行くに決まってるじゃないですか♪圭太先輩って本当に話聞かないんですね♪私、圭太先輩をお手伝いするって言ったじゃないですか♪』

俺は立ち去ろうとする足を止めた。火の雨をあんなんって言うくらい強い見たいので、こちらとしては大歓迎だが、こんな旅に連れてっていいのか。

『先輩♪行き先決まってるんですか♪?』

俺の思考を遮るように閻魔は言った。

『あー。富士山に行く』

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