道中

 宿場町を出発したアルバたちは、そのまま街道が続く限り北上した。

 時には野営、時には立ち寄った町や村の宿を利用し、アイリに無理をさせないようにしつつも、その旅は順調に進んでいった。

 人の往来がある街道には魔物があまり現れないこともあり、その道中は大した危険もなかった。人数が多いせいか、野盗の類とは遭遇しなかった。

 そのおかげもあり、五人の旅は終始賑やかなものだった。 


 例えば。



「じゃあっ、今日も頑張っていこーっ!」

「……セリアは朝から元気だな……」

「……まだ、ねむい……」

「よっしゃー! 俺もセリアに負けてられっかー!」

「うるさいから、張り合わなくていいよロット……」



「……おじさん、つかれた……」

「――ほら、おんぶしてやるから。ロットとロッカ、荷物持ってくれ」

「「はい!」」

「アイリちゃんっ、アイリちゃんっ! 疲れたんなら、ボクがおんぶしてあげるよっ!」

「……セリアのせ中は、けんでごつごつしてるから、やだ」

「なっ――! ア、アルバ……代わってあげるから、代わりに剣持ってっ!」

「はぁ? お前の剣重いから嫌だ」

「うわーんっ! ボクだってアイリちゃんおんぶしたいのに――――っ!!」



「セリアって料理できたんだな……」

「ちょっとアルバっ、なんで意外そうな顔してるのさっ」

「人は見かけによらないってほんとだな!」

「……ロットくんっ? それどういう意味かなぁっ?」

「うぉっ!? あぶねぇだろバカセリア!」

「今のはロットが悪いよ。ねー、アイリちゃん?」

「うん、バカはロット」

「バカじゃねーし!!」



「今夜の見張りはボクがアルバと組むからねっ!」

「いやいやいや! 俺とだし!」

「ちょっと! ロットは昨日組んだでしょ!?」

「おいお前ら、静かにしないとまたアイリが――」

「――……うるさい」

「「「ごめんなさい」」」



「これくらいの魔物なら、お前ら二人で倒せるだろ。頼んだ」

「「はい!」」

「いざとなったらセリア、助けてやってくれ。今の俺は戦えないしな」

「りょーかいっ。アイリちゃん起こすわけにはいかないもんねっ」

「……にやにやしてんじゃねぇよ」

「ちょっ、手をわきわきさせないでよっ、あれ痛いんだからっ!」

「ったく。……おー、さすが双子。息ぴったりだな」

「ほんとだっ。これならボクが助けなくても大丈夫そうだねっ」

「じゃあ、そんな暇そうなセリアに仕事をやろう」

「えっ?」

「あの木の果実、取ってこい」

「遠っ!? やっぱさっきにやにやしてたの怒ってんじゃんっ!!」



「ロッカ、寒くないか?」

「大丈夫です。ありがとうございます」

「……………………」

「……………………」

「……ロッカは静かだな」

「えっ……だ、だめですか……?」

「だめなわけあるか。他の奴らがうるさいからな。ロッカみたいに静かだと落ち着くんだよ、夜は特にな」

「あ、ありがとうございます……わ、私も――」

「うん?」

「あの、いや……なんでも、ないです……」

「顔赤いぞ、大丈夫か?」

「だ、だだ、大丈夫です!」



「この前見てて思ったが、お前ら魔術は使えないのか?」

「俺は全然……」

「私は多少なら使えますけど……」

「よし、じゃあロッカだな。いい魔術を教えてやるよ。弓とも相性がいいはずだ」

「えっ――あ、ありがとうございます!」

「なにっ、アルバ。やけに優しいじゃん?」

「……一緒に旅をしてるんだ、こいつらにも強くなってもらわないと困るだろーが」

「ふぅん? ――いたたたたたたっ!」

「何にやにやしてんだ」

「いたいっ! いたいよっ! ごめんってばっ!」

「ちょ、師匠! 俺にもなんか教えてくれよ!」

「長剣は使えんって言っただろ。魔術も使えないんじゃ、俺が教えることなんてないぞ」

「――じゃあっ、ボクが教えてあげようかっ」

「そういや前は長剣使ってたな……なら頼む――どうした、アイリ?」

「おじさん、わたしにも何か教えてほしい」

「お前もかアイリ……」



「ね、ねぇ……アルバ……二人きり、だねっ……?」

「二人で見張りの番してるだけだからな」

「ボ、ボクねっ……? アルバのことが……」

「おい、しな垂れかかってくんな」

「――もうっ! もうちょっとムード出してくれてもいいじゃんっ! こんなかわいい女の子と二人で寝ずの番だよっ!? アルバだってドキドキするでしょっ!?」

「――……ないない」

「ちょっとっ! 今ボクの身体のどこを見たぁっ!?」



「おじさん、さむい」

「確かに大分寒くなってきたな……ほら、もうちょっと着込んどけ」

「――もはやおじさんと呼ばれることに、何の反論もしなくなったアルバだった……」

「あん?」

「――って、この前、剣を見ててあげてた時にロットくんが言ってましたっ!」

「はっ!? 言ってねーし!!」

「……セリアさんってもっとちゃんとした人だと思ってたのに……」

「おいセリア、ロッカに幻滅されてるぞ」

「セリアもロットもバカ」

「バカじゃないよっ!」「バカじゃねーし!!」


 等々。



 そして街道の果て、峠を越えたあたりで、景色に白い物――雪が混ざり始めた。

 雪を初めて見るのだろう、アイリは大はしゃぎだった。

 その様子を見て、アルバは胸を撫で下ろした。アイリにとって、辛いだけの旅なのではないか、と思っていたからだ。

 ロッカ、ロットと一緒に雪で遊ぶアイリは、心から楽しそうに笑っていた。


  

 アイリの体調を優先していたため少し時間は掛かったが、目指していた【雪月国メティキス】――その王都【ニビット】へアルバたちはようやく辿り着いたのだった。

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