第2話

異世界と一口に言ってもいろいろな概念がある。今問題になっているのは、お隣さんと言ってもいいぐらいの、概念的に近い異世界。実は我々の世界と少しだけ位相のずれた空間が、基本的にはお互い干渉することなく並存している。ところがちょうど地球の一部で位置的にも時間的にもとても近い状態となっていて、その近さ故に、適切な場所で適切な力を適切な方向にかけることで、世界は部分的にではあるが本当に簡単に重なり合ってしまう。

 いくつかあるそうした重なり合う場所のひとつ。その向こう側には禍々しい空気を纏った城があった。どちら側から作られたのかもわからないそれには、必要以上にと言っても良い程に華美な玉座があり、玉座に向かって跪く男がいた。

「もう少しですぞ、我が王」

しかし、語りかけられるべき王はそこには居らず、音を吸収するもののほとんどない空間に陰気な声だけが反響した。

「必ずあなたを……」

何と言ったのかはきっと本人にもわからない。


「だからさ、瀕死のところを異星人に助けられて変身ヒーロー!王道展開!っておもうじゃない」

話しながら、襲ってくるルービックキューブを拳で叩き落とす。

「それがなんでウエディングドレスなわけ?割と悪夢のようなビジュアルになってると思うんだけど!?」

拳だけでなく肘の上まで一見レースのような何かに覆われているのだが、これがまたなかなかの攻撃力だ。拳も痛くならないし。機能的にはなんの不満もない。ないのだが。

「先代のデザインなのだ」

耳元から猫ちゃんの声が聞こえる。ベールにイヤホンと通信機みたいなものが仕込まれてるのかな。いっそテレビ電話にしてアイアンマンみたいに顔を隠してくれてもよかったんだけどな。

「今回は急だったのでサイズ以外はデザインも武装も全てそのままなのだ。顔を出すのも先代のデザインなのだ」

先代って何者だよ。ちっちゃい女の子だったのか?

「30代女子だったのだ」

過去形で語られることも含めて、深く考えるのはやめよう。だいたいこのルービックキューブどもの相手に忙しい。いつのまにか増えてるし。

いくつかのルービックキューブが一面を揃えてきた。赤をそろえたキューブが右から、緑をそろえたキューブが左から襲ってくる。何か仕掛けられる前に叩き潰す。それらの後ろからは二面揃ったキューブが迫ってきている。

「そもそも敵ってなんなの」

「そういえば説明してなかったのだ」

猫ちゃんの説明によるとどうやら敵というのは異世界から体の一部だけを飛ばしてきて、何かを集めているらしい。猫ちゃんはその何かを具体的には教えてくれなかった。もしかしたらよくわかってないのかもしれない。問題はその集めている何かがこの世界のいろいろなところにあることで、その回収は時々我々人類にとって困ったことになってしまうようだ。なるほど走っている電車から部品が抜き取られたらとか想像するとなかなかに恐ろしい。

「そういうことなのだ。なので出現したら迎え撃つ必要があるのだ」

しかしそれだと防戦一方になるんじゃ……

「今はまだ仕方がないのだ」

三面揃ったキューブ。何が違う?

「このキューブがその体の一部って奴だよね?」

「そうだとも言えるし、違うとも言えるのだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

白銀の花嫁衣装 城乃山茸士 @kinoppoid

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る