白銀の花嫁衣装
城乃山茸士
第1話
その日はたまたま良いことがあったのだったか天気が良かったからなのか忘れたけど、少し浮かれていたので目の前を走る猫ちゃんをつい追いかけて。それに少し夢中になってしまっていたので、まわりが見えなくなっていて。
あっと思ったときには、ブレーキの音、警笛、視界の隅にたぶんトラックの顔、体中に受ける衝撃、カメラを吹っ飛ばしたみたいな映像、まあ実際吹っ飛んだんだけど、そしてよくわからない何か。
きれいさっぱり意識も消し飛んで、時間の感覚もわからないまま次に認識したのは、暗闇と、追いかけてたはずの猫ちゃん。申し訳なさそうな顔してる。勝手に追いかけて勝手にぶつかっただけなのに、君がそんな顔しなくても。
「違うのだ……追いかけてくるのがおもしろくてついつい遊んでいたら、あんな事に……」
なるほど、遊ばれてたのか。いやしかし猫ちゃんに遊んでいただけるなら本望というか。こうやって無事なのだし。無事なんだろうか。無事っぽいきがしてるんだけど。
「無事じゃないのだ……あなたの体は今わりと見られない状態になってるのだ……」
なんてこった。そして驚くべき事に猫がしゃべってる。
「一応死なないようにする方法はあるのだけど……自分に落ち度がある状態で提案するのは憚られるのだ……」
言いにくそうにする猫ちゃん。しかし言ってもらわないと話が進まないじゃないか。
「その方法を使うと、変身して戦ってもらわないといけないのだ……」
なるほどつまり、瀕死の隊員を助けて変身ヒーローにするみたいなアレなのね。納得。ぜんぜん無事じゃないけど何とかなるのねオーケイオーケイ。
「なんて軽いノリ……こっちとしてはとても助かるけど。じゃあこれから生き返ってもらう、っと、ちょっと待つのだ」
耳がピクピクしてる。かわいい。
「申し訳ないけど、説明してる時間がなくなったのだ。すぐに変身して戦ってもらわなければいけなくなったのだ」
うんうん、かわいいぞ。って今すぐ?
「今すぐなのだ。とりあえず身体を復元して射出するのだ」
射出?うちだす?
「カウントダウン省略、ゴー!」
急に視界が明るくなる。錯覚なんだろうけど、空に向かって落ちていく。
「すぐ敵性体と接触するのだ。機甲礼装を展開するのだ」
身体が硬質の何かに覆われ、無数の歯車が蠢く音と振動が全身から伝わってくる。少しくすぐったいな。そしてすごいボリューム感。おそるおそる自分の身体のほうに目をやると、なんだこれーーーー!!!
それは白く輝く……そう、まぎれもなくそれは、ウエディングドレス。ただし金属製。
「相手が気づいた、避けるのだ」
「いやあの、これはどういう」
ごいん。何かがぶつかった。
「機甲礼装、白銀の花嫁衣装(しろがねのウエディングドレス)なのだ」
「なのだ、じゃねえーーーーーーーー!!!」
ぶつかってそのまま貼りつこうとするルービックキューブ状のソレをひきはがしながら叫ぶ。これは、だめだ。これはさすがにだめだ。
こんなのは、少し髪の薄くなってきた中年男性には、厳しすぎる試練だ。
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