360話 進まない戦い
焱さんが来てくれた!
急に心強くなった。僕は結構単純だ。
「雫、水球出せるか? まさか理術が使えねぇ時まで戻されてねぇよな!?」
「だ、大丈夫!」
僕に何が起きたか焱さんは知っているらしい。火精の情報網はどうなっているのか。
「だよな! 水壁出来てるしな!」
焱さんがいつもよりも大声で、水壁を挟んでいても耳がキンキンする。言われるまま水球を焱さん向かって投げた。
焱さんはそこに自分の火球を捩じ込んで、矢の先端に刺した。それを免に向かって射る。
激しい爆発が起こって免の姿が見えなくなった。合成理術・
小粒の石が飛んできた。水壁が防御に一役かった。
「焱さん……」
「まぁ、これくらいでは倒せねぇよな」
「合成理術とは鬱陶しい」
免の舌打ちが聞こえた。掠れた声は多少ダメージがありそうだ。
焱さんからは免の様子が見えているようだ。火球を乱発させているので、出来る限りの水球を発生させた。時を戻される前に、続けて攻撃を繰り返す。致命傷を与えないと無意味だ。
焱さんは全ての水球を合成させて、続けて三つずつまとめて撃ち込んだ。爆発が三段階になって凄みが増した。
「焱はまだ焱なの?」
「え?」
「火理は、まだ生きてるの?」
そうか。先代さまは焱さんのことを知っているのか。焱さんだって流没闘争を知っているのだから当たり前か。
「火精は代替わりしてないと思いますよ」
「そう。随分、長生きになった」
「何か良い燃料が出来たらしいですよ」
こんな呑気な話をしている場合ではない。焱さんに水球の追加を渡そうとしたら、変な顔をされた。
「……おい、雫。大丈夫か? さっきからブツブツもひとりごと言ってるぞ? 頭打ったか?」
「頭はさっき割られそうになったけど……え? 焱さん、見えないの?」
「何が?」
僕には見えていて、焱さんには見えていない。ベルさまのところへは言ったと言っていたから、ベルさまにも見えている。
「淼。余は多分、水精にしか見えない。と思う」
「……みたいですね。何でですかね」
「知らない」
先代さまは自分のことなのに、まるで興味がないみたいだった。
「遅くなったわね! こなたも参戦するわよ!」
「え……鑫さん!」
僕たちの後ろに鑫さんが立っていた。いつも通り金髪を高く結い上げて、細身の槍を持っている。
「鑫さん! どうしてここにいるんです? 金の王館は大丈夫なんですか?」
金の王館は挽の襲撃を受けていたはずだ。超合金傀儡で挽と戦っていたところまでは、ベルさまに見せてもらった。その後、どうなったか分かっていない。
「えぇ、怪我人が何人かいるけど全員無事よ。
鑫さんが僕を見て手で口を抑えた。可愛いと言われても嬉しくない。それが免と同じ感想だと伝えるべきだろうか。
「
「はいはい」
鑫さんは僕からスッと離れていった。視線の先には免がいた。灰色の綺麗な服が、度重なる爆発でボロボロになっていた。白い肌がところどころから見えている。
鑫さんは左右の指の腹を擦り合わせている。粉状のキラキラした物が指の隙間から時々見えた。何らかの金属であることは間違いない。でもその粉末をどうするつもりなのか。
「行くわよ、焱!」
「おぅ!」
鑫さんは合わせた両手を顔の前で開いた。四本の指は閉じたままで焱さんに向かって突き出す。指先の方がキラキラと光っていた。西日に照らされているためか、やや赤みを帯びているように見える。
鑫さんは手の平に顔を近づけると、強めに息を吹き掛けた。それに焱さんがタイミングを合わせた。
「巻き込まれるなよ! ……『
激しい音と光に目を細めた。火の粉が飛び散って無造作に広がっていく。赤や白、黄色青……たくさんの色があって、夜だったら綺麗に見えたかもしれない。勿論、離れたところから。
「熱つつつ……」
鑫さんが火の粉を避けている。幸い僕と先代さまのところには水壁があるから大丈夫だ。戻されたのが
「淼」
隣にいる先代さまは肩をビクつかせている。ドンッという音が怖いみたいだ。でも眩しさは平気らしい。瞳がないから眩しくないのだろうか。
「大丈夫ですよ。先代さま、心配しないでください。皆、強い
先代さまを不安にさせないよう、背中に手を当てた。思ったよりも自分の背が縮んでいて腕を上げなければならなかった。
「淼。話がある」
「どうしました?」
先代さまは深刻そうな顔をしている。……といっても骨だけだけど、何かを覚悟したような……そんな固い気持ちが流れてくる。
「淼。余は御上に許可を貰った。だからそれを実行するためにここに来た」
「どうしました、突然」
「淼、誰と話してるの? 大丈夫?」
鑫さんにも焱さんと同じようなことを言われた。本当に先代さまが見えていないらしい。
「鑫、加勢しろ。雫は少し休め!」
焱さんが免の反撃に合っていた。免は石柱を操り、石柱を飛ばしている。火傷で爛れた皮膚が痛そうだ。
焱さんは弓を両手で持ち、飛んでくる石柱を受け止めていた。器用に弓を扱い、石柱を右へ左へと受け流している。
「淼。一旦王館に戻ると良いわ。ここは任せて」
鑫さんは焱さんに加勢した。槍で石柱を破壊して回っている。タイミングを狙って飛んでくる石柱を足場にしてしまうのは凄いとしか言いようがなかった。
僕なんかいなくても何とかなってしまいそうな気がする。
でも……焱さんと鑫さんが免の攻撃に対処している間に、免は自身の傷を治していた。
「効いてないの?」
「嘘だろ、マジかよ」
「合成理術とは、考えましたが残念でしたね」
焱さんと鑫さんも苦戦している。月代と同じ光景を見ている気がする。
「焱さん、鑫さん! 一撃で倒さないと駄目だ!時を戻せないくらいの大きな攻撃で……っ!」
大きな声で二人に呼び掛けていたら先代さまに袖を引っ張られた。
「理王と太子のみに許されている方法があるの、知ってる?」
「理力分けですか?」
先代の木理王さまと、当時太子だった当代木理王さまの間で、一度行われている。あの時は木太子の冠名である
「先代さま。今、それどころじゃなくて……」
この鬼気迫る状況で、何故、今その話なのか。
「そそそそそそそそそ某も馳せました!」
「来たか、
「木の王館は大丈夫なの?」
今度は桀さんが現れた。僕がいることには気づかずに、焱さんと鑫さんの元へ走っていく。
「だだだだ大丈夫です。
太子たちが続々と集まってくる。
「
垚さんが来れば太子が全員揃う。でも兵馬俑の指揮を取っている中、ここに来るのは難しいだろう。
「放っておけ! 森、上から回ってくれ。鑫、技巧之火の威力を上げるぞ!」
「えぇ、分かったわ!」
「しししししししし承知!」
水壁を挟んで免と太子たちの戦闘をただ見つめる。何も出来ない自分がもどかしい。いや、水球を作るくらいなら出来る。少しでも力になりたい。
「僕も手伝ってきます。先代さまはここで….」
「
先代さまから心に刺さる一言が返ってきた。
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