12話 理術復習
「気の理力 命じる者は 雫の名 理に基づいて 形をば為さん 『
「白玉よ 命じる者は 雫の名 いざ類を呼べ 露と為れ 『水球乱発! 』」
「漂う気 命じる者は 雫の名 核をば作り 珠を磨かん 『大水球!』」
手のひらサイズの水球ひとつにそれよりも少し小さい水球が三十個ほどふよふよしている。
あれ? 大きい水球が見当たらない。失敗かな。……と思ったら、
今日から一人で理術の復習を始めた。復習と言っても具体的には、その理術がどう言うものなのかちゃんとイメージできることと、詠唱を正確に暗記することがほとんどだ。
前ほど疲労感を感じたり、息切れしたりすることはなくなったが、それでも休憩が必要だ。疲れていることに気づかず、理術を使い込んでしまって気絶したことがあるので気を付けないと。
あの時は先生がいたからなんとかなったが、今は一人なのだから自分で限界を見極めなければならない。ちなみに先生はその時、
先生は一ヶ月で帰ってくるかもしれないし、長くかかれば二ヶ月かかると言っていた。だから二週間で復習を終わらせて、その後の二週間は
その前に一通りやってみないとなぁ
大きく伸びをする。
「よしっ! 頑張るぞ」
顔を両手で軽く挟む。自身に気合いをいれるために軽く叩くと、その勢いでかどうかは分からないが、先程の
「……つ、疲れた」
明日は、今日できなかった分と、初級理術を組み合わせる練習をしよう。僕はまだ上級理術は二つしか使えないから、初級理術を組み合わせてカバーするため、先生からよく練習するように言われている。
例えば、
比較的地味な練習だが、一度に色々なことをしなければならないので集中力が大切だ。
着替えもせずに寝床でうとうとしていたら、コンコンッとノックの音が聞こえた。控えめな音だったので、気のせいかとも思ったが、もう一度コンコンコンッと今度は三回聞こえたので、慌てて起きる。
僕の部屋に来る可能性があるとしたら
そう思いながら扉を開けると、僕の予想は外れていた。どちらの人物でもなく、透明な魚が目の前で泳いでいたのだ。口と思われる部分に紙を咥えている。体をしなやかに踊らせて僕の腕をつつく、受けとれということらしい。どうやら手紙のようだ。
「あ、ありが」
僕が手紙を受けとると、くるりと円を描いて、お礼をいい終える前に弾けてしまった。手紙は特に濡れたり湿ったりしている感じはしない。どうやって持ってきたんだろう。
ひっくり返すが差出人は書いていない、ただどこかで見たことのあるような紋章が入っている。何の紋だったかちょっと思い出せない。宛名も僕の名前は書いていないが、おそらく淼さま宛だ。表面には
なんで僕のところに来たんだろう?
そう思いつつも封筒を開けようとするとすでに封が開いていた。多分、
「……母上」
十年会っていない母からの手紙だった。
親愛なる我が子へ
貴方が王館にあがってから十年ほど経ちました。短い時間ではありますが、御上や皆様にご迷惑をおかけしてはいませんか?
貴方が健やかに、清らかに過ごせていれば母は安心です。
御上から近い内に一度里帰りさせるとのご連絡を受けました。母はとても嬉しく、貴方の元気な姿を見られるのを楽しみにしております。
しかし、ここまで来るのも穏やかでないかもしれません。母は心配しております。くれぐれも……くれぐれも用心して参るように。
「……母上」
先程と同じ呟きだと声に出してから気づいた。いい香りだと思ったのは母の川の香りだったからだ。便箋の下に持っていた封筒を改めて見直す。封筒の裏にある紋章。どこかで見たことがあると思ったら、母が使っていた紋章じゃないか。確か
ーーも、大きくナったラ
なんだ? 気持ち悪い。無意識に両腕をさすっていた。鳥肌が立っている。頭の表面がむずむずするような感じがして少しかきむしった。何だろう。優しい母の記憶なのに、何故か気持ち悪さを感じる。
「疲れたのかな」
手を額に当てる。疲れたのかな、ではなく確かに疲れている。きっと睡眠を欲していて気分が悪いのだろう。しっかり休んで明日も頑張ろう。便箋を封筒に入れると引き出しにしまう。でも待てよ。これはもしかしたらあれが使えるかもしれない。
もう一度引き出しを開けて封筒を取り出す。
「守るもの 命じる者は雫の名 壁をば合わせ 砦を造れ 『水の箱』」
封筒を掴んでいる指を離すと同時に水の箱が完成する。ちゃんと中に封筒がおさまっている。透けて見えるから入っているかどうかはすぐ分かるのだが、取り出すのは難しい。僕はすぐに蓋を開けられるのだが、誰か他の人が開けるときには鍵が必要だ。そこまで隠すような手紙でもないのだが、練習にはちょうどよかった。
それにしても、母上は何をそんなに心配しているのだろう。確かに僕は弱いけど、実家に帰るだけだし、
寝巻きに変えながらそんなことを思う。寝床を整えて体を潜り込ませるとあっという間に眠気が襲ってきた。もともと疲れていたから寝付くのは早そうだ。……
そういえば先生は今どこにいるのかな。そんな風に思いながら、朝までぐっすり寝返りも打たずに眠ってしまった。
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