10話 雫と淡
「ああ、それより一、二ヶ月は復習するんだろ?」
氷を片付け終わった
僕の
「うん。明日から一個ずつ振り返ろうかなと思って」
「一通りやったら、一回外に出てみないか?」
「どういうこと?」
王館の敷地内は守られている空間だし、他の精霊もいないから理術は使いやすい。
一方、外に出ればもちろん他の精霊との接触もあるし、自由な理力を使える条件も変わってくる。王館内で難易度の高い理術で実戦するよりも、外で日常的に使う簡単な理術を実際に試した方がいいんじゃないか。
というようなことを
「王館は理力に満ちていて使いやすいからな。だからさっきみたいにちょっと口にしただけでも詠唱なしで
ふーむ。分かったような分からないような。それよりもデザートの焼きプリンが美味しい。もう一個食べたい。
「外に行くなら付き合うけど、まぁちょっとやってみてから考えてみろよ。どっちにしても練習は必要だろ」
鮭を飲み込んだ
「……悪い! ちょっと仕事だ」
「仕事? 今から?」
淡さんが着崩していた黄色の着物の襟元を
「悪いな、食事中に。器は後で取りに来る! じゃあな!」
「あ、いってらっしゃい」
「仕事かぁ」
僕の今の仕事は理術を学ぶことだと言われたけど、特訓したら
二人分の食器を洗いながら先程までの会話を思い出す。
「……淼さま、相談にのってくれるかな」
身近と言ったら失礼極まりないのだが、ここ十年間で最も身近な存在の淼さま。
最近忙しいみたいで執務室にいないことが増えた。もしかして今まで僕が邪魔で出掛けられなかったのだろうか。……駄目だ。一人でいるとどうしても悪い考えが浮かんでしまう。
今日、執務室の前に行ってみていなかったら諦めよう。居ても忙しそうなら声をかけずに戻ってこよう。そう思いながら『気化』を唱えると皿を濡らしていた水滴が見えなくなった。
「というわけなんです」
「なるほどね。久しぶりにここに来たと思ったら、そんなことが」
夜、執務室まで行ったのだが、音がうるさいかと思ってノックをせずにほんのちょっとだけ扉を開けて中を伺った。案の定、中には誰もいなかったので部屋に戻ったのだが、しばらくすると
どうやって呼び出されたのかというと、僕が後でお風呂にいれようとして、部屋の隅に置いておいた大水球に
仕事が一区切りついたのか、書類の山は減っていないが、淼さまが席を立ってソファの方に移動してきたので、僕の悩みを率直に話した。
先生から、戻り次第王館内で理術の実戦訓練をすると言われたこと。
「
言い終わった後に自分の息が少しだけ上がっていることに気づいた。息継ぎもせず、一気に早口で喋ってしまったようだ。肩を上下させている僕とは対照的に
「……二人とも雫のためを思っていることは間違いない。でも二人とも半分正しくて半分間違いだ」
正面に座る淼さまはお疲れのはずだ。でも僕の話を真剣に聞いて真剣に答えてくれる。
「言っていることはどちらも正しいが、どちらも雫がどうしたいか聞いていない」
「僕がどうしたいか……?」
「そう、雫が。ただこれに関しては私もだな。雫に理術を学ばせるとき、雫の意見を聞かずに決めてしまったからね。だから私も同じ過ちをしているし、その分二人の気持ちもよくわかる」
「理王は間違わない……か、プレッシャーだなぁ」
「あ、いえ、その。すみません。つい」
今日の僕はどうも口が滑るみたいだ。ちょっと黙ってよう。
「結局のところ、みんな雫のことを考えているわけだけど、そうだな。今回のことに関して言えば、師匠の方は断るのは難しいだろうな」
あ、やっぱり。怖いから本当はやりたくないんだけど、
「理王の名により雫の教育を
「そうですね」
結局やらなきゃいけないなら素直に受けておくべきだ。
「心配しなくても師匠は雫を傷つけるようなことはしないよ。
多少ってどこまで? という疑問は飲み込んだ。聞いちゃいけない気がする。
「とは言え、
思っても見なかった案に驚いた。実家というと母上のところだ。
「十年間、一度も帰ってないんだからたまには顔を見せておいで。母上の方には私が
「……はい、そういってました。でも里帰りなら一人で」
「いや……それは駄目だ」
「雫はまだ理術の一部を使えるようになったばかり、一人での外出はやめておくように」
「? わかりました。」
里帰りするのに理術を使うのかどうかよく分からなかったが、とりあえず淼さまに頷きを返した。
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