エピローグ

 学校は賑やかな様相に包まれていた。

 少女は明るくクラスメイトと話し、楽し気に学生生活を謳歌している。

 それを遠目に見ながら、歩鷹は揚げせんを食べていた。

『なるほど、ご苦労だったなカーター。今回の論文も面白いものになりそうだ』

 電話先の相手は彼を労うように言った。

「いや、遺したらマズくないですか、これ。古き神々による世界終焉シナリオなんて魔導協会の連中やらが見たら発狂もんですよ?」

 此度の件は公表しようものなら世界の裏で暗躍している組織がこぞってひっくり返る代物だ。それをレポートにしようものなら何をされたか分かったものではない。

『ならば創作物ということにして提出したまえ。なに、古き神々と一人・・で渡り合ったなんて他の連中は信じんよ』

 歩鷹は充のことをセネカには隠すことにした。

 古き神々のうちの一人が今は人の姿をしているなど、電話先であろうと話すことではないだろう。

『で、いつ帰ってくるんだ?』

 セネカは待ちきれんとばかりに問う。

 しかし、

「いや、しばらくはこっちにいますよ。夏季休暇も近いし、飛行機代も馬鹿になりませんから」

 淡々と述べる歩鷹。

 瞬間、何かを強烈に叩く音が電話越しに聞こえてきた。

『何!? では君の論文はどうなる、こうなったら空輸で構わんから送ってこい!!』

 ものすごい勢いで怒鳴るセネカ。

 歩鷹は携帯を耳から話すが、延々と怒鳴り続けるセネカの声を無視し、ついには電話を切った。

「たっく、先生は俺の論文にしか興味ねえのかよ……」

 愚痴をこぼす歩鷹の足元でシストラムが小さく鳴いた。

「え、いや、夏休み終わったらちゃんと帰るって。まぁ単位足りてねえしな」

 どうやらシストラムに怒られたようだ。

 コールが鳴り続ける電話にメッセージの通知が届く。

 電話を無視してメッセージを開くとそれは充からのものだった。

「よし、じゃあ迎えに行くか、いくぜシストラム」

 シストラムが彼の肩に飛び乗ると、歩鷹はその場を後にした。



「へぇ、じゃあアンタ頭いいんだ?」

 意外そうな顔でそう言う充に歩鷹は苦虫を潰した顔をする。

「んだよ、馬鹿に見えるってか?」

 少し怒った素振りで歩鷹は言った。

「まぁ、どっちかといえば馬鹿よりよね」

 得意げな顔で失礼なことを述べる充に歩鷹は溜息を吐く。

「お前、良い性格してるな?」

「ふふ、そうでしょ? だって神様だもん」

 生き生きとした顔の少女は足早に駆けていく。

「ほら、早くいこ。人でいっぱいになっちゃうよ!」

 年頃の少女のような顔で笑いかけてくる充。歩鷹は少し微笑むとその後を追いかけた。

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人形奇譚~Daughter of Sinner's~ 河伯ノ者 @gawa_in

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