第18話 彼氏とネズミ捕り(のちプチ職質)

 その日、彼氏はいつものように朝釣りに行っていた。

 その帰り道のこと。その時は友達といっしょの釣行で、その友達を送るために彼氏が車を運転していた。



「やっぱり次は砂浜から弓角を投げたいよね。回遊魚狙いで」

「ヒラメ・マゴチも捨てがたい。たまにはルアー縛りもいいかも。エサは最初から持っていかないで」

「それもいいね。あ、でもそれとは別に今度船釣りも行ってみたいんだよね」



 車内では延々と釣りトークが繰り広げられていた。

 釣りをやらない彼女の身からすると何を言っているのかさっぱり分からないが、本人たちは楽しくて仕方がないらしい。

 そんなフィッシングラブな時間。

 そのため、ついつい見落としてしまったのかもしれない。

 とある道を、右に曲がった直後のことだった。

 曲がった先で、何だかやたらと車が停まっていた。何だろう……と疑問に思うのとほぼ同時に、その光景が目に入ってきた。



 警察官が、おいでおいでをしていた。

 時間帯右折禁止の道だったのだ。



「すみませんね、この道、午前八時半から九時までの間、右折禁止なんですよ」

「はあ……(三十分だけの禁止って……)」

「免許証をお願いします」



 納得はできないものの言われて流れるような動きで免許証を出す。

 日頃の職質経験のおかげで、警察官に対するとっさのリアクションだけは条件反射のように身体に染みついていたのだ。



「あ、免許取ったばっかりなんだね。ええと、二点減点になります」

「何とかなりませんかね……?」

「ごめんね、こればっかりは規則ですから。はい、ここにサインをお願いします。これを持って期間内に反則金を振り込んでくださいね」

「うう……」



 物腰は丁寧であるもののやっぱり何となく納得いかない。

 というか曲がった先で待ち構えていないで、その前で注意してくれればいいのにと思う。これが俗に言う「ネズミ捕り」というやつなんでしょうね……


 時間帯右折禁止違反で二点減点。

 免許を取得してから一年の間は、減点三点で初心者講習を受けなければならなくなるため、いきなり崖っぷちである。

 何となく釈然としない思いでいると、警察官が追い打ちをかけてきた。



「というか、荷物が多いね。何をしてたの?」

「え? いやちょっと釣りに行ってきた帰りで……」

「釣り? ふぅん、少し荷物を見せてもらってもいいかな?」

「え……」



 この流れはまさか……

 いつもの職質への流れになってしまうのか!?

 とはいえこの時の彼氏と友達の格好が、



 彼氏

・いつも通りの人相の悪い顔に日除けのサングラス。

・汚れてもいい適当な服(ところどころ破れて(魚の)血がついている)。

・釣り帰りであるため全体的に生臭い。

 友達

・同じくサングラス。

・上はやはり汚れてもいいTシャツで下はぶかぶかなジャージ。

・ビーチサンダル。



 というものだった。

 ……うん、客観的に見て、完全に何か犯罪をやってそうな二人組ですね。


 とはいえこの時は軽く釣り道具を調べられるくらいですんだという。

 昼間であったし、明らかに竿とかリールとかが剥き出しでトランクに入っていたのが幸いしたのだろう。

 だけど友達の「職質なんて初めて……」な目が、痛かったという。






 次回:もうちょっとだけ小話が続きます。

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彼氏が歩けば職質に当たる 五十嵐雄策 @syaruruu

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