第17話 彼氏とポリスメンの邂逅(inアメリカ)

 突然だが、彼氏は帰国子女だったりする。

 父親の転勤で、小学校一年生から四年生の間までアメリカに行っていたのだ。

行き先は、シカゴピザでも有名なシカゴだという。



「彼氏、帰国子女なんだ。すごいね! 食べ物は何が美味しかった?」

「寿司かな。あと味噌汁とカップラーメン」

「日本食ばっかり……」


 カップラーメンは何か違う気もするけれど。


「あれ、だったらもしかして彼氏って英語を喋れたりするの? バイリンガル?」

「喋れないよ!(なぜか自信たっぷりに) 日本人学校に行っていたからね。それに住んでいた家の両隣がイタリア人とドイツ人で、あんまり英語を使うことがなかったんだ」

「まさかの三国同盟!」

「でも英語は割と得意だよ。アイスキャンディープリーズ」

「それ和製英語だよ!」



 そんなどこに行ってきたのか微妙に怪しい彼氏なのだが、実はアメリカでも現地の警察官――ポリスメンと接触する機会があったのだという。



「もしやアメリカでも職質を……?(どきどき)」

「違うよ! さすがに小学生の時から職質の常連だったら、エリートすぎるでしょ!」

「うーん、そっか(ちょっと残念)」



 ではいったいどんな理由でポリスメンとコンタクトを取ることがあったのかというと、その機会は二回あったのだという。



「一つめはそんなに大したことはないんだよね。両親が運転してた車が事故に遭って、それで現場の検分にポリスメンが来ただけで」

「え、だいじょうぶだったの?」

「うん、事故自体は些細なもので、脇道から飛びだしてきた相手の車とちょっと接触したくらい。怪我人も出なかったし、検分も三十分くらいで終わったかな」

「彼氏はその間、何してたの?」

「特にやることもなかったから車の中でコロコロコミックを読んでた。あと、こっちのポリスメンはやっぱりごついなって思ったくらいだったかな」



 軽い口調で言う彼氏。

 それでも外国に行ってそこのポリスメンに事故検分されるなんてなかなか経験できることじゃない。やっぱり彼氏と警察との間には惹かれ合う何かがあるのだろうか。



「それで、もう一つは何だったの?」

「あ、うん」



 彼氏が少しだけ言葉を濁す。とはいえ一つめが一つめである。せいぜいパトロール中のポリスメンと何か話す機会があったくらいだろうと思っていた。

 だけど彼氏から返ってきた言葉は、予想外のものだった。



「……近所で、バラバラ殺人事件が起きてね」

「……え?」

「その、被害者が冷蔵庫に仕舞われた状態で見つかったらしいんだ。もちろん犯人はすぐに逮捕されたんだけど、その事情聴取ってことで近所の家を回っていたらしくて、それでうちにも来た」

「…………」



 ……え、予想の斜め上の飛び道具が来たよ……!?

 ……さすがアメリカ。クリミナルマインドばりの猟奇事件……!



「近くには湖もあるような静かな郊外の街だったから、ちょっとした騒ぎにもなったんだよ。事件があった家はうちから車で五分くらいの近所だったからね……」

「……」



 めちゃくちゃ近所……

 そのせいもあって、彼氏はしばらくの間、外出禁止になったという。

 家の裏には小川もあって、彼氏はそこにザリガニ(本場のアメリカザリガニ)を獲りに行くことを何よりの楽しみにしていたため、地味に辛かったとか。



「でもアメリカに住んでいて、遭遇した物騒な事件はそれくらいだから。むしろ日本に帰ってきてからの方が物騒だった気もするよ」



 ……まあ、隣のマンションに殺人事件の容疑者が住んでいたり、近所で通り魔事件が起きたり、駅前で遮断機を振り回すおじいちゃんがいるような街ですもんね。





 結論:今住んでいる街が一番のクリミナルマインド。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る