雨宮羽依の暇つぶし

雨宮羽依

プロメテウスの想区妄想

 プロメテウスの想区からレイナたちを連れて脱出した後のことだ。レヴォルたちは大丈夫だろうかと門の向こう側に思いを馳せながら、ぼろぼろになった栞を見つめる。

 マキナ=プリンスとファムは既に箱庭の王国へと帰って行ってしまった。「ありがとう」も「さようなら」も言えないままに。


 思えば僕はあの “魔女” に助けられてばかりだ。初めて出会った時からずっと……今だって、彼女がいなければきっと何もできないまま自分自身の無力さを嘆いて終わっていたのだろう。自分の物語の主役が自分だなんて、そんな当たり前のことにも気づけないでいた。


「まったく……本当に厄介な魔女だなぁ。もう会えないかもしれないっていうのに、言いたい事だけ言って僕の話は聞いてくれないんだから」


「お姫様をお願いね、王子様――」と。

 そう言った彼女の少しだけ寂しそうな声が耳に残っている。

 僕は王子様じゃないけれど、故郷ではただの脇役だったけれど、君にそう言われちゃあ仕方がないな。最後まで “善い魔女” で居続けた君の代わりにはならないかもしれないけど、“王子様” として今度は僕が “お姫様” を守るよ。


 ワイルドの紋章は潰えてしまった。もう二度と、彼女と―― “善い魔女” のファムとコネクトすることはないんだろう。

 それでも僕は、「私は善い魔女だから」と口癖のように言う彼女の笑顔の記憶に、これからも助けられていくんだろう。

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