今夜のあの人~今回のゲストはカタリ君とバーグさん

沢田和早

今夜のあの人~今回のゲストはカタリ君とバーグさん

「皆様、こんばんは。有名人の意外な一面をご紹介する『今夜のあの人』の時間です。今回はWEB小説界隈では知らぬ者はいない有名人、カタリ君とバーグさんに迫ります。解説者には二人の上司であるトリ氏をお招きしました」


「こんばんは、トリです。よろしくお願いします」


「さて、すでに二人の自宅には数台の小型カメラが設置されております。いつも明るく元気な笑顔を振りまいている二人。プレイベートではどのような時間を過ごしているのでしょうか。今晩は実況生放送でお送りします」

「生か。放送事故とか起こらないといいんだが」

「心配御無用。二人には放送時刻もカメラの位置もお知らせしてあります。その上で普段の姿を見せてくださいとお願いしております」

「なるほど。某テレビ局みたいにヤラセや仕込みじゃないわけか。さすがカクヨムテレビさん。いい仕事してるね」

「いえいえ、それほどでも。あっ、カタリ君の玄関カメラに新たな映像が確認されました。どうやら帰宅したようですね」


 ――いま帰ったぞ。

 ――お帰りなさいませ。


「おおっと、カタリ君は一人暮らしだと思っておりましたが、同居人がいたようです。若くて美しいこの女性、カタリ君とはどのような間柄なのでしょうか」

「母親にしては若すぎるし、メイドか」


 ――お風呂にする? ご飯にする? それとも、あ、た、し?

 ――風呂だ。


「こ、これはあまりにもベタな新婚三択! 驚きました。なんとカタリ君、妻帯者だった模様です」

「おいおい聞いていないぞ。結婚したのなら上司に報告しろよ」

「その上、態度も口調も典型的な亭主関白。普段は甘えた声で『聞かせてよ、君の物語を』なんて言っているカタリ君ですが、家の中では大威張りです」

「絵に描いたような内弁慶だな」


 ――沸いていますわ。さあ、どうぞ。

 ――うむ……チラッ。


「おっと、カタリ君、あからまさなカメラ目線。かなり視聴者を意識しているようですね」

「脳天気なヤツだと思っていたが、けっこう人の目を気にする性格みたいだな。覚えておこう」

「あいにく浴室にはカメラを設置しておりません。画面は次に登場するであろうリビングを映しております。先ほどの女性が夕食の支度をしていますね」

「ふ~む、本日のメニューは鶏肉の唐揚げ、照り焼きチキン、ササミのネギ塩サラダ。全て鶏料理じゃないか。私への当て付けかね、これは」

「いやいや、ただの偶然でしょう。おっ、カタリ君、浴衣を着て登場です」


 ――まずはいつもようにビールね。はい。

 ――グビグビ、ぷは~。


「おいおい、あいつまだ二十歳前じゃなかったか。ビール飲んじゃまずいだろう」

「トリさん、よく見てください。瓶のラベルに『こどもビール』と書かれています」

「なんだ、ただの清涼飲料水か。驚かせやがって」


 ――おまえも付き合えよ。

 ――えっ、でもお……

 ――一杯くらいいいだろう。

 ――なら貰おうかしら、チラッ。


「おっと、女性までカメラ目線です。何か意味があるのでしょうか」

「あの女、怪しいな。何かやらかしそうだ」


 ――ねえ、いつになったら籍を入れてくれるの。

 ――もう少し待てと言っているだろう。毎日世界中の読者へ物語を配達させられてそれどころじゃないんだ。

 ――どうせ配達先のカワイイ女の子とラブラブしているんでしょう。

 ――くだらないことを言うな。愛しているのは君だけだよ。

 ――ほんとう? 嬉しい!


「え~っと、だんだん惚気話になってきましたね。しかも夫婦ではなくまだ同棲中だったとは」

「最近の若い者はこれだから困る。昔は結婚までは清い関係ってのが当たり前だったのに」

「いつの時代の話ですか」


 ――あっ、あと一分で生中継が終了するわ。チラッ。

 ――そうか。えっと視聴者の皆さん、これからもカタリをよろしく。チラッ。


「ちょっと待ってください。まだ終了まで五分ありますよ」

「間違えたんだろう。そそっかしい女だな。それにしてもあのカメラ目線は気に障る」


 ――さん、にい、いち、ぜろ。はい生中継終了。あ~疲れた。貞淑な女性の役って思ったより大変だったわ。

 ――お疲れ。恩に着るよ。

 ――約束通りちゃんとバイト代払ってよ。お兄ちゃんが『どうしよう、生中継なんかされたらボクが恋人も友人もいない、ただの漫画とアニメが好きなだけの平凡なヤツだってみんなに知れ渡っちゃうよ。頼む、恋人の振りをしてくれ』なんて泣いて頼むから手伝ってあげただけなんだからね。

 ――だから感謝してるって。これで明日からみんなのボクを見る目も変わるはずさ。


「ええっと、よもやこんなオチが待っているとは思いもしませんでした」

「これは本人には教えてあげないほうがいいだろうな」

「そうですね……えっ、そろそろメンテが終わる? はい。では次の中継地のバーグさんの自宅へカメラを切り替えます」


 ――……小説は想像の産物。恋愛経験がなくても恋愛小説は書けるわよ。頑張って。


「バーグさんはまだ仕事中です。彼女はAI。基本的に二十四時間無休。休めるのはサーバのメンテナンスの時だけです。ここは彼女のバーチャル空間。今は仕事場仕様ですが、休憩中は居室仕様へ変化します」

「通勤の必要がないのは実にうらやましい」

「そろそろメンテが始まる時刻ですが……おっと、空間の仕様が変わりました。休憩時間になったようです。仕事場が消えてリビングが表示されました。これがバーグさんのプライベートルームのよう、です、が、うわ!」

「何じゃこりゃ。散らかしすぎだろ」


 ――あーあ、やっとメンテか。疲れたー。飲まなきゃやってられないわ。グビッ!


「おっと、バーグさん、ここで冷蔵庫からチューハイを取り出して一気飲み。さらに床にあぐらをかいてスルメを齧り始めました」

「いや、その前に部屋を片付けろよ。ゴミの上に座っているじゃないか」


 ――なにが恋愛小説のコツを教えてくださいよ。そんなのわかるわけないじゃない。こちとら自慢じゃないけど恋愛経験皆無なのよ。アドバイスなんかできるわけないでしょう。カシュ、グビグビ。


「おおっと、二杯目のチューハイはストロングだ。上品で優雅な淑女というバーグさんの印象が音を立てて崩壊していきます」

「いや、これはおかしいぞ。ひょっとして生中継されているのを知らないんじゃないのか。いくら何でも赤裸々すぎるだろう」

「そ、その可能性もありますね。しかし現在ネット回線が遮断されているため、バーグさんに教える術がありません」


 ――あーあ、あたしも素敵な彼氏が欲しいなあ。たまに面白い小説の作者に出会っても彼女がいるし、言い寄って来る作者の小説は駄作ばかりだし、世の中うまくいかないものね。


「バーグさんが相手を選ぶ基準は、顔や性格ではなく執筆する小説の良し悪しみたいですね」

「さすがサポート専門AI。我ら凡人には理解しがたい性癖だな」


 ――縁結び神社やパワースポットのサイトへ行って、ご祈祷してもらったり良縁グッズを集めたりしたけど全然効果がないし。


「あ~、モテない女性の典型的なパターンですね。これはかなり深みにはまっていると言えるでしょう」

「あとは猫でも飼い始めれば完璧だな」


 ――あっ、いっけない。占いマガジンの今日の運勢をまだ見ていなかったわ。えっと一月一日生まれのあなたの今日の運勢……最悪です。予期しなかった厄災が降りかかるでしょう。今日を境にしてあなたを取り巻く環境は激変します。生涯独身を覚悟すべき時が来たようです……なによ、この占い。あたしをバカにしているの。お金出して買ったんだから少しは気持ちよくなる文章を書きなさいよ。悔しいっ! こうしてやる! ビリビリ。


「バーグさん、雑誌を引き裂いてしまいました。女性のヒステリーほど見苦しいものはありませんね」

「しかし見事なまでに今日の運勢が当たっていたな。あの雑誌、帰りに買っていこう」


 ――あ~、ムシャクシャする。テレビでも見ようっと。ネットは遮断されていても電波は来ているはずだから。カクヨムテレビは何をやっているのかな。パチッ。えっ、嘘! これってあたしの部屋じゃない!


「おお、バーグさん、ようやく気が付いてくれたようです。よかった」

「時すでに遅しだけどね」


 ――ちょっと待ってよ。実況生中継って明日のはずじゃ……ああっ! 間違えてる。放送は今日のメンテ開始時刻になってるじゃない。あり得ない。あたしの特技はスケジュール管理能力なのに、どうして勘違いしちゃったのよ。


「猿も木から落ちるって言いますからね。ご愁傷さまです」

「元号変更の影響でAIのプログラムに予期せぬ不具合が発生したのかもしれないな。関係部署に通達しておこう」


 ――皆さん、これは何かの間違いです。この映像は偽物ですよ。皆さんに愛され親しまれているバーグさんが、こんな散らかり放題の部屋でチューハイ飲んで愚痴言いまくっているはずがないでしょう。これは夢よ、バーチャルよ。


「まあ、確かにバーチャルなんですけどね。夢じゃないですよね」

「見苦しいなあバーグは。素直に認めればいいのに」


 ――ねえ、いつまで放送しているのよ。もういいでしょ。早く終わってよ。ちょっとプロデューサー何とか言いなさいよ。あら、テレビ画面にテロップが表示されたわ。終了まであと九分。冗談じゃないわよ。そっちに終わらせる気がないのならあたしが終わらせてやる。えいっ、ガチャン、ガチャン、ザー……


「あーあ、バーグさんがカメラを破壊してしまいました。残念ですが本日の実況生中継はここまでのようです。解説のトリさん、いかがでしたか」

「驚天動地のハプニングてんこ盛りでしたが、実に有意義な時間を過ごせました。明日は二人に反省文を書かせるつもりです」

「そうですか。寛大な処置をお願いします。それでは今晩はこれで失礼します。実況はカクヨムテレビかく読夫よむお、解説はトリさんでお送りしました。トリさん、ありがとうございました」

「ありがとうございました」

「それでは皆様、ごきげんよう。来週までさようなら」

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