リンドバーグ、リンドバーグ

@ns_ky_20151225

リンドバーグ、リンドバーグ

「ここに画像と、音声をリンクしたい」


 有償か無償か選ぶよう促される。


「無償。あと、商用利用可、改変自由で」


 即座に候補が表示される。少年はいくつかに印をつけて配置してみた。同時に音声も試聴する。


 ある程度できたところで支援AIを呼び出し、意見を聞いた。


「文章ではなく、画像で直接示すのですか? あなたは作家志望ではないのですか」

「だって、こっちの方がわかりやすいし、俺は風景の描写とか嫌いなの。バトルだけ書いてたい」


「正直に言わせてもらえば、あなたの戦いの描写は登場人物の位置すらわかりません。なぜ数メートル離れて怒鳴り合っていたのに『拳が頬をかすめ』たのですか?」

「お前漫画とか読まないのかよ。コマの間を読むんだって」

「お前じゃありません。リンドバーグ、あるいはバーグです。それに、私たちがしているのは小説の話です。行間は読めてもコマなんかありません」

「だからハンバーグは古いの。今はあらゆるメディアが融合してるんだから、文字の表現にこだわってばかりじゃだめ。そんなの流行らない」

「私をハンバーグと呼んだのはこれで百二十七回目です。幼稚ですね。あなたの作品と共通しています」


 机上の小さな立体映像の笑顔が消えた。口が一文字に結ばれる。


「さて、では、なぜカクヨムを発表する媒体として選んだのですか。ここは文字表現の場ですよ」

「それは昔の話でしょ。小説が文字だけで出来ていたのは。ここだって映像や音声をミックスするのは当たり前になってるし」


 そう言いながら手近な小説の一段落を再生した。音楽とともに踊る文字が古代の王子の戦闘を描写した。血に染まる甲冑が抽象的に表現され、前衛芸術であるかのように見える一方で、それらを背景とした文字の可読性は保たれていた。


「いいえ、今でもそうです。表現手法が多様化し、かつ、誰でも高度な技術を手軽に使えるようになったからこそ、文字のみの表現に価値があるのです」


 息を吸う仕草をすると、笑顔が戻ってきた。


「小説を始め、芸術は作り手だけのものではありません。受け手あってのものです。極論すれば、読者の想像力という力の助けなしに完成する小説などありません」

「それと、文字だけの表現がどう関係するの? どんな表し方をしようが受け手が補完してくれるんだろ」

「また間違えましたね。私の名前だけじゃなく、私の言った事も誤って解釈しています。そんな事は言っていません。読者は作者の未熟さを『補完』などしません」

「どうでもいいよ。俺の言いたいのは文字だけってのはつまらないし、読者も寄り付かない。現にお前に言われて文字だけで書いてみたけど、数字増えないじゃないか」

「リンドバーグです。それは単に技術力不足です。さっき言ったようにあなたには描写する力が足りません。あなたの書いた文章からは登場人物の立ち位置すら読み取れません」

「なら、映像か、図で示せばいいさ。分かりやすいのが一番」


 笑顔のままため息をつく。明らかに呆れている様子だった。


「そういう部分の描写こそ、あなたの作家としての個性を出す場所じゃないですか。図を使うなんてもったいない」

「けど、読者は字だけ並ぶのなんか求めてない」

「そういう人もいるっていうだけです。小説を読む人は、やはり文章を求めています。映像も音もない世界で、作者の技巧に酔わされながら、そこに自分の想像も加えたいのです」

「そんなの今となっては少数だよ」


 ほんのわずか、を指で表し、AIの顔に近づけた。


「でも、ここ、カクヨムを選んだのはあなたです。そして、私を支援AIとして選びました」


 その指を押しのけるように腕を動かす。それに合わせて指をどけると、真面目な表情でまっすぐこちらを見ていた。


「どうしますか。もう書くのをやめますか。あるいは他のAIと変わりましょうか」


 俺はカクヨムに登録した日の事、そして、支援AIの仕様を読み、リンドバーグを選んだ時の事を思い出した。

 あの頃は文字だけで世界を表せると思っていた。


 いや、今でもだ。


 虫の居所が悪い時に小理屈で絡みはするが、結局、俺はリンドバーグに賛成なんだ。自分に技術がない点も含めて。だから、まだまだ助けてほしい。


「分かった。お前の言う通りにする。これからも支援よろしく頼む」


 そう言いながら指示を出し、執筆中の小説からテキスト以外の要素を取り除いた。


「お前じゃありません」

「じゃ、なんて呼べばいい?」


「リンドバーグ、あるいはバーグです」


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