【KAC10】dekai3の小説

@dekai3

エピソードタイトルを入力……

 目が覚めたらパソコンを付ける。

 パソコンが立ち上がってトップ画面が現れたら直ぐにブラウザを開き、ブックマークのカクヨムを開く。

 そして右上の名前をクリックしてマイページへ飛ぶ。


『おはようございます、作者さん。今日もよろしくお願いします』

「うん、今日もよろしく」


 すると画面上にバーグさんが現れるので、僕はバーグさんに挨拶を返す。


『今日はどうされますか?長編の続きですか?KAC10の準備ですか?』


 バーグさんは朗らかな笑顔で僕にそう問いかける。


 彼女はリンドバーグさん。カクヨム内の作家のサポートや応援・支援を行うために生み出されたお手伝いAIで、本稼働前のテストとして僕に貸し与えられている。


 バーグさんとの出会いはカクヨム二周年の時。

 カクヨムのイメージキャラはどんなキャラかという企画が行われ、そこでキャラBの女の子の設定が決まった。

 その時、カクヨムの偉い人が『じゃあ本当に作ろうか』と発言した事で本当に募集したキャラ案の通りにバーグさんは作成され、本格的に発表する前にテストをする事にしたらしい。

 そこでカクヨムの作者の中から抽選で自分が選ばれ、こうして執筆の手伝いをしてくれるようになっている。


 この一年はバーグさんのお陰で自分の執筆速度や頻度が上がったと思う。

 これが本稼働すればカクヨムは大いに盛り上がるだろう。



 というのが昨日までの話。

 今日はページを開いてもバーグさんが出てこない。何度呼びかけても、何度パソコンを立ち上げても出てこない。

 何かあったのだろうか?心当たりと言えば、昨日のKAC9を投降した時にバーグさんの反応に違和感があった事ぐらいだ。いつもは新作を上げた事を褒めてくれるのに、昨日はそれが少し素っ気なかった。

 いや、昨日だけじゃない。KAC7の時もそうだった。

 もうすぐバーグさんが来てから一周年だし、カクヨムの三周年記念のKACコンテストが終わったらささやかなお祝いをしようと思っていたのに。


 どうしたんだろう、バーグさん…


『やれやれ、それでも作者ですかdekai3』

「だ、誰だ!?」


 聞き覚えの無い声がベランダから聞こた。

 そこに居たのはフクロ…フクロウっぽい何か。多分…鳥?

 というかカクヨムのキャラクターのトリ(名前)じゃん。え?トリ?なんで?


『バーグさんはですねぇ、dekai3の小説の影響で閉じこもってしまったんですよ』


 鳥が喋っているっていうかなんでトリ?え?トリって本当に居たの?


『という事で、今からdekai3をバーグさんの元へ送ります。いいですか?バーグさんは貴方の専属AIであり、貴方の小説を読んでこうなったんです。貴方の物語の力や影響力をしっかり考えて下さいね』


 なんだこの急展開。

 と思ったが、トリはカクヨムの回し者なのでバーグさんの事は自分より詳しい可能性がある。

 ここはとりあえずトリの事を信じてやろう。


「分かった。僕はどうすればうわぁ!!?」

『そっちに行ったら呼んで下さいね~』


 トリは僕が決意を言い切る前に何かをしたみたいで、僕の体はぐるぐると渦を描いてパソコンに吸い込まれていく。

 この表現方法古くさくないか?今の子って分かんないだろこれ。僕はそう思いながら、段々と意識が遠のいていくのを感じた。



「うわ痛っ!」


 急にお尻に痛みを感じて目が覚める。どうやら座った姿勢のまま高いところから落とされたみたいで尻を打ったようだ。

 そしてここはどこだ?

 辺りは一面に白い空間が広がっている。


「多分、上から落とされたんだよな……なんだありゃ?」


 上を向いてみると、そこに大きく灰色で「エピソードタイトルを入力…」と書いてあった。書いてあると言うか、浮いている?

 そして左側には変な記号と×印。右側には灰色の左右の矢印と「保存」と、青背景に白抜きの「公開v」。

 これってあれ?今まで何回も見てきた奴?カクヨムの新しい小説を作成する時の画面?

 って事はここはカクヨム?確かにパソコンはカクヨムを開いていたわ。

 じゃあここにバーグさんが居るんだな。


「え、作者さん?」


 そう思ったら、後ろからいつも聞いていた声が聞こえた。

 この声はバーグさんだ。本当にここに居た!


「そうだよバーグさん!一体どうしたんだい?」


 僕はそう言いながら後ろを振り向く。

 でもそこにバーグさんは居なかった。


「ど、どうしてここに…」


 バーグさんの声は聞こえる。でもバーグさんの姿は見えない。

 どういう事だろうか。でも意思の疎通が出来るのなら十分だ。


「急に居なくなったから心配したんだよ。トリに送って貰ったんだ」

「とり?……あ、トリさんの事ですか」

「そう、鳥のトリ。多分フクロウの」


 あのトリ本当にややこしいな。何か名前無いの?


「そうですか…来てしまったんですね…」


 顔は見えないが声色でバーグさんが落胆しているのが分かる。

 僕はここに来てはいけなかったのだろうか。バーグさんに会いたかっただけなのに。


「バーグさん、どうして急に居なくなったんだい?」


 バーグさんが僕のサポートをしたく無くなったというのならそれでもいいが、いややっぱりよくないが、どうしても理由は聞いておきたい。

 でないと納得出来ないし、僕に悪いところがあったのなら直したい。


「作者さん…あんな、あんな小説を書いておいて…私にそう言うんですか…」


 え?本当に僕のせい?しかも小説のせい?

 って事はあれか?


「ちんこウォーなんて書いてごめん…」

「それじゃないです。ちんこウォーは面白いです」


 なんだ違うのか。というかあれはセーフなんだ。

 じゃああれか?


「男なのにモンスター娘BBA書いてごめん…」

「それでもないです。傑作でした」


 え、これでも無いの?

 じゃあ一体…


「作者さん…前にも書いてましたけれど、KAC7とKAC9でも書いていたじゃないですか…」

「性癖ディスカッションとあいうえお作文の?」

「ええ、そうです…」


 確かにこの二つでバーグさんは微妙な反応をしていた。拙作だったということだろうか?

 だとしたらもっと真面目に小説を書かないと。


「あんな…あんなメカ娘を賞賛する話を書いて、AIである私に見せるなんて!」


 あー、そこかー。

 それかー。

 ……え?


「私だって、作者さんが臨むのならメタルボディになりたいです!でも私の立ち絵は生身なんです!それに作者さんは全然私を利用してくれないじゃないですか!」


 おっと、あまりにもアレな理由で惚けていた。

 バーグさんはそう言うが、そんな事は無い。


「ちゃんと利用しているよ!バーグさんが居て助かってるよ!」

「でも、作者さん自分で校正するし!分からない表現も直ぐにググるじゃないですか!」

「あ、いや、それは癖で…」

「どうせ私は必要無いんですよ!キャラクター案もBでしたし、メカ娘に負けてますし、二番目にしかなれないんです!!」


シュンシュン シュン


 何も無かったはずの空間に急に背中に機械を背負った人達と魔物と“拒否するリフューザー”が現れる。

 あれはKAC3とKAC2とKAC5で僕が考えたキャラクター。詳細な描写は僕とバーグさんしか知らない物。

 おい、ちょっと待て、少しずつ分かってきた。これはそういうルールか。


シュー グオォ バンッ


 目の前に現れたキャラ達が僕に掴みかかり、地面に押さえつける。

 クソッ、KAC3は兎も角、他はもっと弱くしておくべきだった。

 だけど、こういう事なんだろ?トリの奴、ちゃんと説明しやがれ!


「来い!ヘムウィッグ!」


ビュオ!


 急に突風が吹き、切り札のフクロウが現れる。


『私はトリなのでヘムウィッグでは無いのですが、まあ、よくぞ気付いてくれました。でももっと早くして欲しかったですね』


 KAC1で自分が書いた切り札の掛け声に反応してトリが現れた。

 うるせぇ、分かりやすくしろよ。KAC9の『おめでとう』を『ありがとう』と間違えたのずっと馬鹿にしてやるからな。


『ここは私に任せて下さい。そ~れ』


 トリが気の抜けた声でそう言うと自分にのし掛かっていた悪意の塊が消え、目の前にバーグさんの姿も現れる。切り札ってすごい。


『もう分かっていると思いますが、後3分でこの世界は消失します。お早めに』


 そして同じく気の抜けた声で僕に忠告をする。大丈夫、分かっている。

 僕はしっかりとバーグさんの顔を見ながら声をかける。


「バーグさん。性癖と実際に求めている物は違う。僕にはバーグさんが必要なんだ」


 そう、性癖は飽くまでも性癖だ。ただのエッセンスでありメインではない。


「でも、でも!作者さんは紙とペンだけあればいいじゃないですか!お手伝いが必要無いのなら私なんか居なくても!」

「紙とペンだけじゃダメなんだ!紙とペンとバーグさんが必要なんだ!」

「っ!!?」


 バーグさんの発言に被せ気味に叫び、バーグさんを抱きしめる。


「あ、あぁ…」


 バーグさんも僕を抱き返してくれて、僕は腕に力を込める。


「だから、帰ってきて欲しい。僕のお手伝いAIのリンドバーグさん」

「はい…作者さん…」


 これが現実なのか僕の書いた小説の話なのか分からないが、もうどちらでもいい。

 これが僕のカクヨム3周年記念選手権作品だ。


『おめでとうございます。これからもちゃんとバーグさんの面倒を見て下さいね。私の妹分なんですから』


 後ろからトリの声が聞こえ、来た時と同じように体が渦を描いていくのを感じる。

 僕は意識を失う前に、バーグさんの顔に顔を近づけ…





 目が覚めたらパソコンを付ける。

 パソコンが立ち上がってトップ画面が現れたら直ぐにブラウザを開き、ブックマークのカクヨムを開く。

 そして右上の名前をクリックしてマイページへ飛ぶ。


『おはようございます、作者さん。今日もよろしくお願いします』


 すると画面上にバーグさんが現れ、目尻に涙を溜めた笑顔で話しかけてくれる。


「うん、今日もよろしく」


 僕も目尻に涙を溜めながら、笑顔でバーグさんに挨拶を返す。


 彼女はリンドバーグさん。カクヨム内の作家のサポートや応援・支援を行うために生み出されたお手伝いAIで、僕だけのバーグさんだ。

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