死ぬ

エリー.ファー

死ぬ

 カタリは、読めばわかるさ、という。

 そんなわけないだろう。

 バーグは、いつも元気、という。

 正直ウザい。

 どうにかしたいと、考えた。

 宵闇にただただ嘘をつかれるように、吹きさらしの人の間をぬぐうように進んでいく。

 カタリは、何一つ本を読み続けていくことで理解しようとはしていないのだそうだ。読むということを起点にした、行動の発露、その点に彼は人生をかけ、生き方を見つめていた。

 バーグはいつも元気だ。確かに元気であるし、そのことには何の反論もない。私にはあのようなことはできないし、そのことが彼女の個性なのだろう。けれど、いつも笑顔でいればいい個性ならこんなにも安いものはない。

 酷く。

 酷く退屈で。

 濡れた言葉が永遠に響くものだから私は銃に、弾を込める。

 私は僅かに触ってからなるべく忘れる様にして唾を床に吐き出す。

 カタリに奪われた妹の命。

 そして。

 バーグに奪われた。

 この右目。

 すべてを取らずに、すべてを奪わずに生きていくことはできない。

 カタリは、私の妹を生きたまま湖の底に沈めていく瞬間、私に向かって呟いた。

 空気くらい、読めば分かるさ、なんで僕に歯向かったのかなぁ。

 その隣のバーグはただただ笑顔で、こちらを見つめ、私の鼻先を踏みつぶす様に靴のかかとを擦り付けると、何度も何度もそれを繰り返す。

 バーグは叫ぶ。

 いつも笑顔でしょ。いっつもいっつも、笑顔笑顔。

 私はもうあの時の私ではない。

 スコープから見える、カタリとバーグは何かを一心不乱に読んでいた。

 面白い小説なのだろう。あの二人なのだから文学に対する知識は持っているうえで、読むべきかどうかを判断している。これはある意味、隙をつくにはもってこいの状況なのではないだろうか。

 私は息を長めに吐く。

 少しだけ、妹の顔を思い出し、まだある左目にスコープを近づけて銃を構える。

 お兄ちゃんはな。

 お兄ちゃんは。

 今、お前のために。

 お前の無念のためにこれから引き金をひくよ。

 さようなら。

 そして。

 どうか、地獄の業火で安らかに。

 そして。

 目があった。

 最初はバーグだけだと思った。

 違う。

 カタリはこちらを見ずに、本に視線を預けたまま銃口だけを向けていた。 

 私は自分の頬を冷や汗が伝っていくのが分かった。

 空気を、読めば分かるさ。

 いつも笑顔。

 その言葉が反芻する。

 ここにいることで溢れた殺気、その空気を読み、笑顔で人を殺せるような滑らかさを持たない、私を窘める。

 あの時から。

 やはり。

 私は何も変わってなどいなかったのだ。

 私は武器を片付けると、静かにそのモーテルを出た。遠くで爆発音が聞こえるが、無視をする。静かな夜には似合わないが、私の心の奥底を表現していると言えばそうなのかもしれない。

 耳をそばだてると、後ろから二つの足音が近づいていた。

 ほほを銃弾がかすめる。

 血が、噴き出た。

 私はそのまま歩き続ける。

 後ろでは男女の若い堪えるような笑い声が聞こえてくる。

 何もかもか。

 何もかも。

 何もかも足りなかった。

 すべてはその御心のままに。

 寝首をカク、そして時流をヨム。

 先輩に言われた言葉を思い出す。

「カクヨム。」

 その瞬間こめかみに何かが当たる。

「僕らが殺しに来ることくらい、ちゃんと空気さえ、読めば分かるさ。そうだろう。」

「ねっ、いつも笑顔笑顔。」

 私は笑顔になる。

 しかし、涙と嗚咽が止まらない。

 私に余計な恐怖を与えまいと、笑顔のまま湖に沈められた妹の顔が。

 震えながら笑顔のまま死んでいく。

 妹の顔が見えた。

「やっば、鼻水出してマジきたねぇんだけどこいつ。」

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