蛾の死体について
@nohouzu
第1話
家の階段、その踊り場にある窓枠の上に一匹の蛾の死骸がある。
階段を下るときいつもそれが視界の片隅をよぎり、私はその度掃除しなければなと思うのだ。
しかし私の記憶が正しければ、その死骸は5年近く放置されている。
なぜそんなにも長期間放置されているのか。恐らくは階段という場にあるのがいけないのだ。
階段とは二つの空間を繋ぐ、移動のためのスペースである。そこで何かしようという気には私はなれない。
ティッシュでも持って階段を下ればいいじゃないかというのが正論だろう。だがこれには大きな障害が存在する。
まず階段の窓枠上に蛾の死骸がある、それ自体を覚えていなければならないのだ。
加えてティッシュを持ち下に行くというのも私は気が進まない。
それぞれの階に備え付けのティッシュがある、その均衡を崩したくない。
一度ティッシュを動かせば、次に階段を上るとき再びそれを持つ必要があるのだ。
蛾の死骸を5年間片付けなかった者にそんな器用なまねができるだろうか。
恐らく答えはNOであると思われる。
これらの理由から私は蛾の死骸を片付けない。
蛾の死体について @nohouzu
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