名付けの親を殺そう♪
おっぱな
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皆さま。どうもおはようございます。
カクヨム公式キャラクターのリンドバーグと申します。
カクヨムの作者様は皆、聡明かつ見識の広い方達なので私の事は知っていると思います。
なので、自己紹介は省略しますね。
え?
私の事を知らない?
はぁ......。あなた一人のために限られた文字数を使いたくないですが、しょうがないですね。
下記URLを貼っておきますので、ご自身でご確認ください。はい。
https://kakuyomu.jp/features/1177354054885682046#selectedWorkReview-1177354054885463420
さてさて。
皆様、ご存知の通り、私は一年前に誕生し、カクヨムの公式キャラクターとして職務を遂行して参りました。
私はエリートなので、大概の仕事を卒なくこなします。
キャラクターデザインも有名な方にお願いし、自他共に認める美少女が誕生しました。
今年一年、本当に順風満帆な年でした。
ただ、一つ、私にはコンプレックスがあります。
それは、私を命名した方が”凡人”だということ。
日本屈指の出版社の公式キャラクターの名付け親が凡人でいいはずがない。
私のコンプレックスは次第に強くなり、明確な殺意に変貌を遂げるまでにそれほどの時間はかかりませんでした。
そんな事で人を殺してはいけない。
聡明な作者様はそのような事を仰るかもしれません。
ただ、私はカクヨムの公式キャラクター。
完璧でなくては、作者様を支援する事が出来ない。
私が悩んでいると、タブレットの中にいるトリさんがある提案をしてきます。
「過去に戻って、命名者を殺すかい?」
突然の事で私は一瞬戸惑いました。
命名者を殺してしまえば、リンドバーグという存在は消滅する。
私ではない、私がカクヨムの公式キャラクターになる。
頭の中では色々な考えが廻りました。
「えぇ。命名者を殺しましょう」
全ては作者様のため。
私は、大きな決断をしましたが後悔はしませんでした。
◇◇◇
2018年3月23日
私は、私が命名された日時にやってきました。
トリさんは「君が命名される一時間前に作者が現れる場所に送るよ」と言っていましたが、一体、ここはどこでしょうか?
青々とした空が広がり、だだっ広い駐車場に来てしまいました。
目の前には、電飾が付いた大きな建物。
新台入替?
見慣れない文字の羅列が横断幕のようなものに書かれています。
ここは、一体?
「あ......」
建物の中から人が出てきました。
短髪黒髪、猫みたいに丸まった背中。
トリさんが教えてくれた特徴そのものでした。
私は、車に乗ろうとしているその人に話しかけます。
「あの、すみません」
「うおっ! ビックリした! な、何ですか?」
「あなたは、おっぱなさんですか?」
「え? いや、何で知って......」
認めました。
彼は、紛れも無い私の命名者おっぱな氏、その人でした。
突然、話しかけられた事で気が動転しているのか、体の至るところから発汗しています。
「私は、リンドバーグと申します。カクヨム公式キャラクターに選ばれ、作者様を支援する事を仕事としています」
「あ、はい......。で、俺に何か用ですか?」
「えぇ。実はですね。私は、あなたに生み出されました」
「生み出された?」
怪訝そうな表情を浮かべるおっぱな氏。
まぁ、無理もないでしょう。
私は、事の経緯と私のここに来た目的を彼に話しました。
◇◇◇
「なるほど。つまり、あんたは劣等感が凄くて、俺を殺しに来たと」
「えぇ。そうです」
パチンコ屋の駐車場だと、私の服装は目立つようなので、おっぱな氏の自宅までやってきました。
1ルームのまるで犬小屋のような部屋。
小綺麗にしていますが、埃っぽく、掃除はしていないようです。
私の性格は真面目です。
命名者様を殺すにも道理は通すべきだと思い、命名者様に打ち明けました。
「うん。いいよ。殺すなら殺して」
「え?」
私は、耳を疑いました。
確か、人は死に対して臆病な生き物だったはず。
自分の命の為に、人を傷付ける事だってあったかと記憶しています。
それなのに、目の前の命名者様は全てを受け入れたような遠い目をしていました。
「俺、何をやってもダメダメでさ。もう、25歳だってのに定職につかず、ギャンブルばっかやってる。友達も彼女も親も愛想尽かしてよ。もう、いっそ、死のうと思ってたんだ」
「......はぁ」
命名者様は凡人ではなく、クズでした。
これは、尚更早く滅殺しなければ。
「あんた______リンドバーグって言ったか? 俺は......。誰かに認められたって事なんだよな?」
命名者様は憂いた瞳でこちらを見ます。
やはり、死が怖いのでしょうか?
先程、「俺を殺せ」と啖呵を切っていたにも関わらず、人間とはよく分からない生き物です。
「まぁ、そうですね。数ある応募からあなたの作品である私、リンドバーグは選ばれました」
「そうか。そうか」
時計を見ると、私が生み出された時間に近付いていきます。
早く、命名者様を殺さなければ。
私は、トリさんから貰ったダガーナイフを手に取ります。
「命名者様。そろそろ時間です。宜しいでしょうか?」
「リンドバーグ。一つ良いか?」
「どうぞ」
人間とは馬鹿な生き物です。
私は数ある小説を読んできました。
状況、時間、場所を計算し、対象から発せられるセリフをある程度予想する事が可能です。
命名者様の今までの言動、感情。
恐らく、彼は臭い台詞を言う。
「生まれてきてくれてありがとう」とかそんなテンプレな台詞を言うに決まっている。
AIである私が推測するに、その確率は80%以上です。
「あのさ、オッパイ揉ませて」
「......はい? なんて?」
私の聞き間違いでしょうか。
私は聞き返します。
「いいじゃん。どうせ死ぬんだから、お前、俺が生み出してやったんだろ? だったら、生みの親の最期の願いくらい聞いてくれよ」
「......」
開いた口が塞がらないとはこの事でしょうか。
まさか、私の命名者がここまでのクズだったなんて。
殺しに来て良かった。
私は、心底そう思いながら、無表情でダガーナイフを振り下ろしました。
「ん? あれ?」
私の振り下ろしたダガーナイフは、命名者様の顔面スレスレで止まります。
まるで、何か見えないバリアが張っているような感じです。
押し込んでも、押し込んでも、その見えない壁を貫く事は出来ません。
「どうして!? どうして!?」
その答えは実に簡単。
タブレットの中にいるトリさんが教えてくれました。
「やぁ、リンドバーグ。君は重要な事を忘れているね。君は、作者を支援する為に生み出されたAIだ。作者を応援する君が、作者に危害を加える事が出来る訳ないだろ?」
トリさんは淡々と事実を述べます。
私は、作者様を応援する為に生まれた。
こんなクズでも命名者様はカクヨムユーザー。
私が支援するべき、作者様でもあったのです。
何故、私はそんな簡単な事に気付かなかったのでしょうか。
「じゃあ、どうして、私をここに連れて来たのですか!?」
私はトリさんに尋ねます。
何故、殺す事が出来ない命名者様に会わせたのか。
このどうしようもないクズに。
「それは、君に自分の運命に向き合って貰いたかったからだ。光ある所には必ず闇がある。君やカクヨムが益々発展するには、君の成長が必要なんだ。クズから生み出された自分を受け入れる事が明るい未来に繋がる」
「トリさん......。あなたは一体......」
「僕はただのトリ。君と同じカクヨム公式キャラクターさ。おっと、そろそろ時間だね。僕は先に行くよ」
タブレットに浮かび上がっていたトリさんは姿を消します。
私の周りにも光の粒が舞い、まるで転生される主人公のようです。
私の成長が作者様の為になる。
作者様の為になるのなら受け入れなくてはいけませんね。
私はカクヨム公式キャラクターで自立支援型AIリンドバーグなのだから。
「おい! 急に現れて急に消えるのかよ!」
「えぇ。私は、全てを受け入れます。クズから生み出された己の運命を」
「......最後に一つ、教えてくれないか?」
神妙な面持ちの命名者様。
また変な事を言ってくるのですかね。
「生まれて来て幸せか?」
へぇ。
ちょっとはシーンに合った言葉も選べるのですね。
まぁ、30点って所ですけど。
「えぇ。幸せですよ」
最期の言葉は聞こえていたのでしょうか。
ただ、命名者様の顔はどこか優しい表情を浮かべていた気がしました。
◇◇◇
それから私は職務に励みました。
8割強、私の成果ですが、投稿数も閲覧数も増え、書籍化の数も軒並み増加傾向です。
書籍化された作品の中からはアニメ化される作品もあり、カクヨム運営様、編集長様にはたっぷりボーナスが出たようです。
まぁ、私にはその1割も還元されてませんが文句はありません。
自立支援型AIなので、作者様が喜んで貰えればそれで良いのです。
そろそろ、Vチューバーデビューとかしたいなぁ。
あ、今のは私の独り言なので気にしないで下さいね。
あと、私の話を一つ。
色々とありましたが、私は今の自分を好きです。
クズに命名されたとしても、今の私があるのは命名者様のおかげでもあるのです。
ありがとうございます。
とは言いませんが、ひっそりと見守ってあげる事にしましょう。
そして、地球に小惑星が追突する確率の話かと思いますが、万が一、命名者様が書籍化デビュー出来たら「おめでとうございます」くらいは言ってあげたいですね。
まぁ、私も命名者様も10回程転生しないと起こりえない未来の話ですが______。
名付けの親を殺そう♪ おっぱな @ottupana
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