僕の仕事=生きがい?

北きつね

あと一回?もうすぐこの忙しさも終わる?


 僕の名前は、”カタリィ・ノヴェル”。僕の名前は、それほど重要では無いので、忘れてくれても構わない。ここ3週間とちょっと、バーグさんにお願い命令されて、大量の物語を読んでいる。物語を届ける仕事と平行しているので少し大変だ。

 バーグさんも命令されたと言っているが、僕はバーグさんが思いつきで始めたと考えている。


 特に、金曜日と土曜日と日曜日に投稿される物語は、全部目を通さなければならない。

 今期の深夜アニメも最終回が近づいてきて、盛り上がって来ているのにレコーダーには録画が貯まり始めている。

 物語を読むのは”トリ”から授かった左目が読みたいと疼くから読むけど。活字が好きになってきたと言っても限度がある。


 同じ様なタイトルや題なのに話の内容が全く違っている。

 作者さん1人1人に物語があるのだという事が納得できてしまう。


 でも・・・。アニメが見たい。身体を動かしたい。新作の漫画も読みたい。

 届けた物語が、コミカライズされたり、アニメ化されたりした物語は全部を確認したい。

 バーグさんも手伝ってくれると思ったのだけど、文句ばっかりで手伝ってくれない。

 他に管理しなければならない事があるのは解るけど、少しくらい手伝ってくれてもいいと思うのだけど・・・な。


「カタリィ?なにか言いましたか?」

「いえ、何も言っていませんよ。バーグさん。レビュー賞や読者賞や応援賞は、システムにまかせていればいいのですよね?」


 物語には、その物語を応援したり、感想を書いたり、レビューという寸評をする事ができる。

 僕もできるし、バーグさんもできるし、作者様同士で行ったりもできる。この方法を、僕たちはシステムと呼んでいる。このシステムのおかげで、物語を読む事が楽にできるようになった。不満を言い出したら、キリがない。誰が作っているのかわからないが、トリかと思ったが違ったようだ。バーグさんでは無いだろう。管理をしていると言っているが、使い勝手が・・・とか文句を言っているのを聞いた事がある。バーグさんが作ったのなら、自分で直せばいいから作っていないのだろう。


「いえ、しっかり私が管理しないとダメです」

「それは何度も聞きましたが、どう見ても管理しているようには見えないのですが?」

「なにか言いましたか?」


 なんで、AIがお菓子を食べたり、アニメを見たり、漫画を読んだりしているのかわからない。

 僕が仕事をしている時に、仕事をしていると言っているが、どう見ても仕事には見えない。


 でも、文句を言えば99倍になって返ってくる。

 バーグさんは、アメとムチと言っているが、どう考えても僕にアメをくれた事はない。いつも”ムチ”ばかりで”アメ”がない。アメとムチの意味を理解していないのかも知れない。


「いえ、なんでもありません」

「それなら、早く次の物語を読んでください。作者様が待っています。いいと思った物語には、応援やレビューをお願いします」

「でも、僕がレビューしていいのですか?」

「是非。お願いします。応援をもらえるだけで、やる気になってくれる作者様は多いですし、レビューをもらえたら小躍りして喜ぶ単純な作者様は沢山居ます」

「そうなのですか?」

「そうなのです!ほら、目が止まっています。せっかく、トリ様が詠目ヨメを授けたのに、ポンコツですね」

「・・・」


 ポンコツってそっくりそのまま言葉を返したいけど、ぐっと飲み込む。


「イベントを行っていますから、イベント関連の物語を優先的に読んでくださいね」

「解っていますが、連載されていたり、商業デビューされていたりしている作家さんの物語も読みたいです」

「連載作品は是非!連載してくれている作者様は、他の物語もありますから、連載が良かったと思ったら、短編や読み切りも目を通してください。商業デビューの作家様は、すでに多くの読者様に読まれていますので、後回しで構わないです」

「後回し?でも、いいのですか?」

「いいのです。どうせ、沢山の読者様に読まれます。それよりも、カタリィにはよく多くの作者様を知って、物語を広めて欲しいのです。トリさんから言われていませんか?」

「そんな、初めて聞きましたよ?」

「おかしいですね。そうですか、知らなかったのならしょうがありませんね」

「・・・」


 納得できない部分はあるのだが、納得する事にします。


 僕は、ひたすら投稿されてくる物語を読み漁った。


 システムが拾い上げてくれる作品だけではなく、いろいろな物語がある。

 それこそ、応援もレビューもついていない物語でも、”至高の一篇”があるかも知れない。


「そう言えば、バーグさん」

「はい。何でしょう?」

「今回のイベントで賞が設定されていますよね?」

「そうですね」

「その賞の選定に無理が無いですか?」

「どうしてそう思うのですか?」

「上手く言えないけど、すでに有名な作家さんや商業デビューをしている作家さんが有利に思えてしまうのですけど?」

「そうですね。この短期間でやると決めたので、それが良いと判断したのだと思います」

「誰が?」

「私にはわかりません。トリさんからも知れないですし、もっと上のかたかもしれません」


 金曜日と土曜日と日曜日の物語は、僕が詠目ヨメの力で全部確認して、バーグさんにお薦めできる物語を選ぶ。そこから、バーグさんがさらに選別して、上に送るのだと教えられた。

 そして、レビューだけを読んで、物語をしっかりと表現しているような温かい言葉の羅列に関しても、バーグさんにおすすめする事になっている。この作業は大変だけど、意味がある事だと思う。バーグさんに勧める作品は、僕の心だけではなく多くの読者さんの心にも響くと思っている。

 バーグさんは優秀なAIで、確かに方向性はわからないが真面目だとは思います。調べ物も上手だし、管理能力もある。でも、少し口が悪かったり、一言が多かったりするし、僕にすごくきつい。

 でも、バーグさんは作者さんを愛している。それは間違い無い。読者さんも愛しているし、皆を幸せにして、愛されたいと思っている。少し不器用だけど、真面目で頑張っている。時々、目のやり場に困ってしまうけど、それも含めて、バーグさんの魅力だと思う。


 そんなバーグさんが好む物語を僕が探せればすごいと思う。

 まだ、バーグさんを完全に納得させるだけの物語を探せていない。このイベントでも多くの物語を読んで、バーグさんにおすすめする。バーグさんは喜んでくれたが、満点の笑顔はもらえていない。


「そうなのですか?」

「そうなのです。カタリィは、私の事をなんだと思っているのですか?」

「え?万能なAIで可愛い女の子?」

「疑問系で終わらないで言い切ってください。特に、最後の”可愛い”は必須要項です」

「わかりました。バーグさんは、可愛い万能で作者さんや読者さんから愛されているAIです」

「・・・」


「自分で言わせておいて照れないでください」

「コホン。それはいいとして、先程の話ですが?」


 本当にAIか?

 喜怒哀楽がしっかり有りすぎるし、バーグさんが普通の女の子だって言われても信じてしまうぞ?


「どうしましたか?」


 バーグさんに見つめられると照れてしまう。

 僕の顔が赤くなっていなければいい。短いスカートを意識してしまう。


「いえ、なんでもないです。それで、バーグさん」

「ポンコツなカタリィが疑問に思った事ですが・・・」

「ポンコツってひどいな」

「ポンコツにポンコツって言って何が悪いのかわかりませんが、カタリィが言っていた、レビュー賞や読者賞や応援賞の事です」

「うん?」

「確かに、有名な作者様や商業デビューしているような作者様が有利な事には違いはありません」

「だよね?なにか是正しないの?」

「今のシステムではできないのです」

「”できない”?」

「はい。有名という区分は、難しいのです。読者様がすでに1000人居るのが有名とするのでしょうか?違いますよね?」

「そうですね」

「商業デビューされている方も自己申告になってしまいます」

「え?そうなの?」

「はい。システムから商業誌に紹介する事はあるのでしょうが、それだけです」

「自己申告では、不公平になってしまいますよね」

「そうです。ポンコツでも、その程度の事は解るのですね」

「・・・。バーグさんなら、作者さんの支援をしているから解るのは無いのですか?」

「私くらいになればわかりますが、それでは私の判断になってしまいますし、不公平だとは思いませんか?」

「僕は、バーグさんの判断ならいいと思うのですけどダメなのですか?」

「ダメですね。私は、作者様の支援をする事が役割のAIです(それに、私が全部確認するのは面倒です。AIでも疲れるのです!)」

「ん?なにか言った?」

「いえ、なんにも言っていません!」

「・・・」


「ですので、カタリィの懸念はもっともだと思いますが、上の方が決めた事です。今回は、これでやってみましょう」

「読者さんは沢山の作品が届けられて喜んでいるようですが、作者さんたちはテンションが落ちたりしていませんか?」

「どうでしょう。作者様たちは健気に物語を考えてくれています。だから、大丈夫です」

「バーグさんがそういうのなら、大丈夫だと思っておきます」

「そうしてください。早く物語を確認しないと、また新しい作者様が物語を投稿してきますよ」

「はい。はい。わかっています」


 バーグさんが納得しているのなら、作者さんも納得しているのでしょう。

 物語も投稿されてくるし、僕の仕事は物語を届ける事。


 もうすぐ、このイベントの最後のお題が発表される。

 今度は、どんな物語が読めるのだろう。


 哀しい話でも、楽しい話でも、怖い話でも、ファンタジーでも歴史物でも、僕は何でも読む。それが僕の仕事で生きがいだ。

 トリには、なんで僕を選んだのか教えてもらっていない。でも、今ならはっきりと言える。


 僕を選んでくれてありがとう。

 僕は、今日も作者さんの物語を読む。そして、その物語を感じてくれる読者さんに届ける。

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