ヨミビト、シラズ
天神シズク
とある『詠み人』の話
トリが僕を『
トリが僕に与えた能力『
今までに何十人、何百人の心を覗いた。明るい話もあれば暗い話もある。初めは嘔吐してしまうことも多かったが、今は少なくなっている。人の心を覗いているのだから、これから起きるであろう惨劇を予期することもできるが、街の管理局に言っても信じてもらえることはなかった。むしろ異常者として扱われた。僕は惨劇の阻止を諦めた。それが運命なんだと。
「おかえりなさい! カタリ!」
家に帰るとお手伝いAIヒューマノイドのリンドバーグが出迎えてくれる。僕は彼女をバーグと読んでいる。彼女は作者を支援するために存在している。
「作者様! よく書けていますね! 下手なりに!」
「作者様凄い! 今日は5000字も書いたのですね! いつもそのペースで書いてくれると嬉しいのに!」
「え? 今日は更新しないのですか? 毎日更新するって言ったのに? いや、まぁ……。別に私はいいと思いますよ。はい」
支援する気があるんだか無いんだかわからない言葉をほぼ毎日投げかけてくる。所詮はAIだ。人の気持ちなどわからないのだろう。そんなAIでも、学習することもある。
「バーグ。黙れ」
僕がこう言うとしばらくは言葉を発しなくなる。黙ったまま、食事の用意や部屋の掃除はしてくれるので正直助かっている。
今日も部屋にこもり執筆を続ける。未経験のことでも、やり続けていればカタチになっていくものだ。僕の小説の質は昔と比べたら段違いだろう。
部屋の隅にはトリが鎮座している。まるで僕を監視しているかのようだ。
「なぜ僕を『詠み人』に選んだのか」と問いかけたこともあったが、トリは答えてくれることはなかった。トリの視線が背中へと突き刺さる。僕は我慢できずに振り返り、立ち上がった。そしてトリに詰め寄った。
そうだ。トリに『詠目』を使えば何かがわかるかもしれない。
僕の頭に1つの妙案が浮かんだ。この使命を続けている内にずる賢くなったようだ。トリの目を見つめる。
「カタリ! ご飯ができましたよ!」
ドアの向こう側からバーグの声がした。集中が切れ、ドアの方に気を取られているとトリは窓から飛び去っていった。
明日、また試してみるか……。
今日はご飯を食べて身体を休ませることにした。そういえば、今日は目を使いすぎた。
「目薬をどうぞ」
「……ありがとう」
僕が目頭を押さえている様子を見て察したようだ。たまにこういうことがあるから見捨てられないんだ。
シチューを口に運び、腹を満たすと部屋に戻った。食欲が満たされたせいか、睡眠欲が僕を襲ってきた。僕はふかふかの布団に身を捧げ、深い眠りへとついた。
…
どれだけの時間眠っていたのだろうか。外は暗いままだ。夕ご飯を食べて直ぐに眠ってしまった。かといって1,2時間しか眠っていないという感覚もない。部屋の時計を確認して見たが、なぜか時計の針は取り外されていた。慣れ親しんだ自分の部屋が、異様な空間に思えた。部屋を飛び出し、バーグを呼ぶ。
「バーグ! いるか!?」
僕の声は家中に反響し、やがて静寂が訪れた。あり得ない。バーグが家にいないなんて。これは夢だろうか。玄関に走り、今度は家を飛び出した。
「ハァ……ハァ……。トリ……こんなところにいたのか……」
トリはいつもと変わらない様子でそこにいた。息を整え、トリを両手でガッシリと掴む。
「『詠』んでやる……!」
右目を瞑り、左目に力を集中させる。次の瞬間、目の前が真っ暗になった。驚いて両手をトリから離し、右目を開く。目の前にはトリがいることが確認できた。右目は見えるが、左目は見えない。
失明……?
失明だとしたら原因がわからない。恐る恐る左目のあたりに手を近づける。そこにはポッカリと穴があった。
「左目は返してもらったよ」
トリが言葉を発した。
「え……?」
僕が間の抜けた声を出した直後、無数のトリが僕を取り囲んだ。足が震え、その場から逃げることはできなかった。トリの爪が僕の皮膚を刺す。
「
僕の反応を無視し、トリは攻撃を続けた。やがて僕は、反抗する術を失った。
トリの左目が不気味に光っているのが、僕の右目に映っていた。
…
「これが『詠目』の力だよ」
部屋で力なく倒れている少年にトリが声をかけるが、少年は両目を開いたまま無反応だった。トリは羽ばたくと、窓から部屋を飛び出し、空の彼方へと消えていった。
ヨミビト、シラズ 天神シズク @shizuku_amagami
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