天邪鬼だって祝われたい

黒幕横丁

天邪鬼だって祝われたい

 僕、神津拓也の彼女、雨宮佳奈は天邪鬼である。

 いつだって自分の気持ちとは正反対の言葉を出してはみんなを困らせている。

 僕にはその様子がとても可愛くて仕方が無いんだけども。


「ん」

 ある日、佳奈がぶっきらぼうに僕の前に紙切れのようなものを突き出した。よくよく見ると、それは賞状だった。

 賞状には、小論文模試優秀賞と書かれてあった。

「これは?」

「夏に模試があったでしょ? それの結果が良かったからってクラスで表彰されたの」

 佳奈はムスッとした表情で答える。

「良かったじゃん」

「どこが良かったものですか。クラスの前で賞状受け取るの凄く恥ずかしかったし、ただただ思ったことを書いただけなのに優秀賞だなんて、馬鹿らしいて困ってしまうわ」

 そう言って佳奈は賞状をやや乱暴に丸める。

「馬鹿らしい?」

「そう、馬鹿らしい。それに、もう秋も終わろうとしているのに、今更夏の模試の結果の話をされても、遅いっつーの、それから……」

 まだ、この賞状について文句があるらしい。紙の材質だの、なんで文字が手書きじゃなくてパソコンの印刷だなど、つらつらと不満を述べていった。

 その様子をみて、僕はプッと不覚にも噴きだす。

 すると、彼女は頬を膨らませて。

「何が面白いの?」

 と僕に向かって丸めた賞状で軽く攻撃をする。

「いや、可愛いなーと思って」

「わ、私は、可愛くありません!」

 彼女は全力で否定する。そこがまた可愛い。

「いや、可愛いね。そりゃ、もう、全力で、可愛い」

「バカーーーーーーーー!!!!!」

 僕は真顔で佳奈の可愛さを主張すると、さらに、佳奈の攻撃は激しさを増していって、ポカポカという音が響く。

「佳奈は素直じゃないなー。そこが可愛いところではあるんだけども。たまには素直に自分が思っていることを言ってごらんよ。僕なら真剣に聞いてあげるから」

「うっ……」

 僕の言葉に、彼女は言葉を濁す。

「本当は、みんなから『おめでとう』って言われたいんでしょ?」

「にゅ。別に祝われたって嬉しくない!」

「この、天邪鬼さん」

 僕は佳奈のおでこに軽くデコピンを食らわせる。さっきの賞状アタックの仕返しとして。

「いてっ」

「優秀賞おめでとう。佳奈」

 僕がニッコリと笑ってお祝いの言葉を述べると、佳奈の顔が急に茹で上がったかのように真っ赤に染まった。

「ふ、不意打ちでそんなこというにゃ! 心臓がもたにゃいだろ!」

 突然の出来事に佳奈の口がしゃべる準備が出来ていなかったらしく、呂律が回っていない。

「祝ってもらって嬉しくないことは無いでしょ? 祝って欲しいなら祝って欲しいっていってくれればいいのに。それで、嬉しくで喜んでいる佳奈の姿がみたーいなー」

「べ、別に、祝われて嬉しくなんか」

「はいはい、ツンデレツンデレ」

「なっ」

 再び顔を赤く染めて佳奈は僕の頭を賞状でポカポカ叩く。

「佳奈が何か賞を貰ったらたくさん褒めてあげるから、これからも頑張りたまえ」

「えっらそうにー。別にいいし」

 佳奈はそう言ってプイっとそっぽを向く。


 後日、あの時のことが満更でもなかったらしく、佳奈は様々な賞を総なめしてしまうのだが、これは別のお話。

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