少年達は夜中に集まった

 ニーナの館に戻り、ロムはすぐ彼女の部屋に行った。

 白い悪魔の事を報告しようとしたが、必要ないと言われた。すでにホークから報告を受け、ロム達より詳しく知っているようだった。


 それならばとホークからの伝言を伝えると、彼女は真っ赤になって絶句していた。言ったロムも真っ赤だったので、その場に居たトールとリンドを誤魔化すのが大変だった。




 ニーナにとって、言われ慣れてない言葉だったんだろうか。それなら、無駄に思えた伝言にも意味があったと思う。


 普段言わないような言葉を託したのかと思うと、ホークも意地悪だなと思う。いや、その意地悪はニーナに対してなのか、ロムに対してなのか。彼の性格を考えると、両方じゃないかと思う。


 それにしても、いつから自分は、こんなに他人の事が気にかかるようになったんだろう。




 ――そんな事、わかりきってる。




 アイラスとトールに出会ってからだ。平気で自分をさらけ出し、無防備に近づいてくる彼らのせいで、自分は変わってしまった。


 それまで他人との関わりは最低限、嫌われない程度に付き合って、言われた事だけこなしていた。深く付き合ったって、辛い事ばかりだと思っていた。

 そうじゃない事を、彼らが教えてくれた。


 今は、あの面倒くさい性格のコナーですら、刀術を教えるのは悪くないと思っている。そんな自分に気が付いた時は、本当に驚いた。






 夕食を終えて寝る時間になって、ロムは寝室に入ったけれど、アドルとザラムを誘ってすぐ部屋を出た。


 女性用の寝室をノックし、顔を出したリサにアイラスを呼んでもらうよう頼んだ。

 明日になると、アイラスはポスターの作成で忙しくなると思う。だから今日のうちに話をしておきたかった。




 彼女は眠そうに目をこすりながら出てきたけれど、ロムを見るとあくびをかみ殺して恥ずかしそうに笑った。


「眠いのに、ごめんね」

「だ、大丈夫! それより、どうしたノ?」

「ちょっと相談があるんだ。……今、空いてる部屋ってありますか?」

「応接間なら、この時間は使われてないと思いますよ。お話が終わりましたら、アイラス様をきちんと送り届けて下さいね?」


 お礼と約束をし、ロム達四人は応接間に向かった。






 応接間の中央にあるソファに輪になって座り、アイラスに単刀直入に聞いた。


「頼まれたポスターが出来たら、誰が届ける事になってるの?」

「特に決めてないけど、多分レヴィが届けるんじゃないかな? ……話ってそれなノ?」

「うん。えぇとね……」


 ロムはアドルの顔をうかがった。視線を受けて、彼が頷いた。


「僕が話すよ。まだロムにしか言ってないのだけど、ちゃんと話を聞いてもらって、もし手伝ってくれるなら、きちんと頼みたいから」

「オレ、居て、いいのか?」

「うん、ザラムにも聞いて欲しい。……心配かけて、ごめんね」

「いや、別に……」


 恥ずかしそうなザラムに、アドルは嬉しそうに笑いかけた。その表情はザラムには見えないのだけど、気持ちは多分伝わっていると思う。




 アドルはゆっくり説明した。

 ホークがアドルの知る人物かもしれない事、その素性を調べたい事。そのために、大人達には内緒で保護区に行って、資料室に忍び込む事。


 話が進むにつれ、アイラスの目がだんだん輝いてきた。彼女も、悪い事を考えると楽しくなるんだなと思うと、ロムはなんとなく嬉しくなった。




「わかった! まかせて。ポスターは私が届けたいってレヴィに言うネ。アドルとロムが護衛で、ザラムは保護区に用事があるって事にするのネ?」

「オレ、行く必要、あるか?」

「無くても、一緒に行こうヨ!」

「うん、僕も人数が多い方が安心だし」

「それなら、まあ……」




 ふと足音が聞こえた気がして、視線をドアに向けた。アイラスとアドルは驚いていたが、ザラムは自分と同じように耳を澄ましていた。


「来てる」

「トールと、もう一人……ジョージさん?」


 ザラムが頷いた。耳は彼の方が良いようだ。


 二人がドアの前で立ち止まった。すぐに入ってこない。

 声をかけるべきか迷ってアドルを見ると、無言で頷いた。確かに、もう話は終わっている。




 どうぞと声をかけると、遠慮がちにドアが開き、トールだけが入ってきた。ジョージの遠ざかる足音が聞こえる。


「トール、どうしたの?」

「それはわしのセリフじゃ。寝室に行ってもコナーとケヴィンしかおらんでの……」

「今日の勉強は終わったノ? 毎日遅くまで大変だネ」


 アイラスが心配そうに聞くと、トールは大きなため息をついた。


「たまには外の空気を吸いたいのう……」

「外出禁止なノ?」

「そういうわけではないのじゃが……出るには護衛を頼まねばならぬからの……」

「遠慮せずに、言ってくれればいいのに」




 突然、アイラスがアドルとロムのえり首をつかんで引っ張った。彼女がめいっぱい顔を寄せてきて驚いた。


「ねえ。明後日、トールも一緒に行けないかな?」

「僕はいいよ。トールになら話しても」

「ニーナが許してくれるかな?」

「みんなでお願いしようヨ。トール、毎日缶詰だと気が滅入っちゃう」


「何を企んでおるのか知らぬが、わしの事なら構わんでよいぞ?」

「そういう訳にはいかないよ」

「明後日ネ、四人で保護区に行く相談してたノ。トールも一緒に行こうヨ。ニーナには、明日みんなで頼んでみるから」

「いや、わしは別に……」


 口では否定的な事を言っているが、頭の耳がピンと立って、興味深そうにこちらを向いている。


「トールって嘘をつくの、下手だよネ」

「うん。それにこれは、ただ遊びに行くんじゃないんだ」

「なんじゃと?」

「極秘任務なノ」


 アイラスが悪そうな顔で微笑んだ。小悪魔ってこういうのを言うのかな。

 そしてアドルが、もう一度目的を話し始めた。




 説明が終わった時、トールもアイラスと同じように顔を輝かせていた。

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