ある画家の話
リュウ
ある画家の話
僕が、絵を描くのが好きだ。
小さな頃から好きだったんだ。
僕には、兄がいた。
何をやっても、兄には敵わなかったんだ。
でも、一つだけ、僕が負けなかったのは、絵を描くこと。
父さんも母さんも爺ちゃんも婆ちゃんも
みんな、みんな、褒めてくれた、僕が、幼いころは。
でも、少し大きくなって、画家になりたいって言ったら、
みんな、反対した。
父さんも母さんも爺ちゃんも婆ちゃんも兄ちゃんも。
僕は、画家になりたいって、言葉にしないことにした。
だって、否定されるのは、知っていたから。
でも、頭の隅っこに隠していたんだ。
大切にね。
学校に行くようになっても、あまり変わらなかった。
図工だとか、美術だとかの時間は、好きだった。
「うまいね」と褒めてくれる友だちや先生もいた。
その時は、とても嬉しかった。
でも、褒めてくれない人もいた。
「もっと、上手い人を知ってるよ」
「絵を描いたって、食べていけないよ」
とか、僕がシュンとなっちゃうような言葉を投げかけてくる。
僕と同じように、絵が好きな人を見つけたよ。
でも、画家になりたいって言ったら、
「絵を描くことは好きだけど、仕事にしたくない」
「好きな事を仕事にしたくない」
とか、まるで僕を画家にしたくないようだ。
だから、画家になりたいって、言わないようにしたんだ。
心のずーとずーと奥にね。
でも、おかしいよね。
世の中には、画家という職業が存在する。
例え、貰えるお金が少なくても、
好きな絵で食べていくことが出来るなら、
画家になることが出来るなら、
何がいけないのだろう。
だって、僕は、就職するために生きているんじゃないんだ。
人より贅沢な生活をして、自慢するために生きているんじゃないんだ。
ただ、綺麗な自分の好きな絵を描いていたいだけなんだ。
好きな人を描きたい。
綺麗な人を描きたい。
鳥や犬や猫やネズミや昆虫たちを描きたいんだ。
そっくりに描くんじゃないんだ。
自分の見たものから、僕が受ける感情を絵にするんだ。
僕の絵をみたら、こんな動物なんだなとかこんな人物だってわかるような。
そうしたら、きっと幸せなんだろうな。
でも、僕には勇気が無かった。
一人で生きるって、決めたならできるだろうな。
父さんや母さんや爺さんや婆さんに心配かけたくなかった。
超一流にならなくても良かったんだ。
普通に生きていけるなら……。
だから、仕事に就いたんだ。
毎日、混雑した電車に乗って、会社に向かう。
そして、仕事。
そして、また電車に乗って、家に帰ってくる。
その繰り返しだ。
動物と言うより、昆虫に近いと僕は思った。
通勤風景を上から眺めたら、きっと、うごめくアリに見えるだろう。
僕は、何年も働いた。
隠れるように、絵を描いていた。
ある時、僕は、こんな生活が我慢できなくなった。
それで、大きな声で叫んだんだ。
「画家になるんだ!」ってね。
僕にしか描けない、綺麗な絵を描いてやるんだって。
その時、あの人が現れたんだ。
「そうか、それは良かった。画家になるんですね。
私にはやく見せてください」
「そうですね、なるべく早く描きます」
その人は、不思議な事を話してくれた。
「私は、待っているんです。
あなたのように、何かを創り上げる人を。
絵や絵画だけじゃなくて、
風景が目に浮かぶような音楽、
文章もいいですね、小説なんかでも。
ただ、利益を得る為だけの仕事ではなく、
心を揺さぶるようなモノを創り上げる人を待っているんです」
そういうと、私の目をじっと見つめた。
心の奥底を見られるような不思議な目だった。
「好きなことをしなさい。仕事はAIとかに任せればよい。
私は、仕事をするために人間をつくったのではない」
(人間をつくった?)
僕は、この人と話しているとドンドン力が湧いてくるようだった。
(そうだ、画家になる、なってやる!)
「おめでとう。私は、その目を待っていたんだ」
その人は、僕の右手を力強く握った。
「私が、力を貸そう。
世の中の人が君の絵が素晴らしいと評価してくれる。
ただ、評価は、君が生きているうちか、
亡くなってからかはわからんがな」
そう言ったとたん、どの人は光輝いた。
僕は、あまりにも眩しいので目を閉じてしまった。
目を開けた時、その人は居なくなっていた。
まるで、夢の様だった。
僕は、家路に着いた。
地下鉄の駅の改札を通る時、チラシを貰った。
<新人発掘企画絵画展、作品募集!>
(これだ!)
僕は、応募するために画材屋に向かった。
チラシ配りは、あの人だった。
ある画家の話 リュウ @ryu_labo
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