密室を知りたい

賀野田 乾

第1話

「確かに…」


ドアの前に立っていた2人の男のうち、片方の男が咥えていた葉巻を口から離しながら言う。


「れっきとした密室には違いないが…」


「そんなやり方では、かえって不便ではないのかね?」


ホテルの一室。オートロックで開くドアのドアを閉めたままの状態から、どうやって脱出するかを議論している。

問いかけられたもう片方の、まだ若い長身で癖毛のやや中性的な風貌の黒いシャツ姿の男は質問の直接的に答えずに、ややもったいぶった言い方をする。



「厳重な刑務所で独房に閉じ込められた中から脱出した高名な大学教授。

鎖で幾重にも縛られた水槽に閉じ込められた中から、見事脱出してみせる奇術師」


「ふむ。私も聞いた事がある」


壮年のがっしりした体躯を軍服に包んだその男は、今自分たちがいるホテルのドアの前で起こった出来事——鍵をかけて出ていった筈のオートロックのドアが、一人でに開いていた手品についての種明かしを聞かされていた。


「なんて事はない。それらはすべて先に密室の外と繋がる手段を作っておいただけ」


癖毛のマジシャンは、両手を大げさに広げクールな表情を崩しておどけて見せる。


「オートロック化されたホテルの鍵、そのドアにはビニールの袋を通していたのさ」


「ビニール?まさか」


「そう、そんな真似はわざわざしないと考える。だからこそ、する価値がある。

実際に、ドアや通気口の隙間にビニールを挟んで掃除をしている従業員がいくらでもいるじゃないか」


癖毛の男は壮年の男の方を見て、不敵に笑った。


ドアを閉める前に、そのドアの開いた隙間に長く丈夫なビニール袋を挟んでおく。

その袋の中には、針金かナイロンのようなものを仕込んで置き、あらかじめ中の部屋の天井——つまりドアのちょうど鍵の真上に当たる部分からまるでテントの骨組みみたいに組まれたパイプに吊り下げられたフックの先端に結び付けておく。透明で一見したらすぐにはわからないようなビニールをドアの隙間に挟んで置き、人気が無くなったところで強力な掃除機のような機械で大量の空気を送り込むのさ」


その突拍子もない発想に呆れたかのように肩を竦め、眉を顰める大柄な男の前で癖毛の男は掃除機のスイッチを入れる仕草を真似して見せた。


「そして空気を送り込まれ、真っ直ぐに膨らんだビニールは結び付けられていたフックに近づく。あとはさらにそこに小さくカットしておいた磁気カードがドアに触れるように配置しておけば、しまっていたと思っていたドアが開くという寸法さ」


ある意味で子供だましのような種を明かされ、やれやれと言う仕草になっておた壮年の男は、そこで何かに気付いたような目つきになった。


「まだ、なにか仕掛けがありそうだな」


次のトリックを説明するかのように、癖毛の男は意味深に笑った。


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密室を知りたい 賀野田 乾 @inuitaku

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