幸せSLG(仮)

HACHI

第1話 ルール

 スマホを機種変更した。

すると、見たことのないアプリがプリインストールされていた。

タイトルも何もわからない。

でも、可愛いうさちゃんのアイコンが可愛くて、軽い気持ちでタップした。


 ちょっと懐かしい感じの電子音がメロディーを奏でて、タイトルがフェードインしてくる。


 「あなたの幸せシュミレーション、がんばれケイコちゃん! 」


 あなたの?

え、つまりわたしの?

ケイコちゃんって、偶然?


 わたしの名前がタイトルになったゲームに、俄然興味がわいた。

アクションやシューティングゲームは苦手だけど、シュミレーションゲームなら出来そうな気がした。

うさちゃんマークのスタートボタンをタップした。


 さっきと同じ電子音がまた違ったメロディーを奏でる。


 『さぁそれでは、最初の3日間を体験してみましょう。

まずは、幸せポイントについて説明するね! 』


 『あなたが作ったルールに沿って幸せポイントが貯まっていきます。

前日に貯めた幸せポイントに応じて、次の日に幸せが訪れます』


 『ルールは全部で20個です。

全部あなたが作ります。

最初に決めたルールをGAMEの途中で変更することは出来ません。

よーく考えてルールを決めてね』



 『プラスルールを10個決めよう!

次の○○に当てはまる条件を考えてください。

決定ボタンを押した後に変更は出来ません』

 

 ルール1:○○をすると、幸せポイント10P

 ルール2:○○をすると、幸せポイント20P

 ルール3:○○をすると、幸せポイント30P

  ・

  ・

  ・

 ルール10:○○をすると、幸せポイント100P



 『マイナスルールを10個決めよう!

次の○○に当てはまる条件を考えてください。

決定ボタンを押した後に変更は出来ません』

 

 ルール11:○○をすると、幸せポイント-10P

 ルール12:○○をすると、幸せポイント-20P

 ルール13:○○をすると、幸せポイント-30P

  ・

  ・

  ・

 ルール20:○○をすると、幸せポイント-100P



 なんだこりゃ?

ポイントが貯まるルールを自分で決めて良いんだ。

なんか簡単すぎない?

 

 そう思いながら、まずはルール1を入力してみた。


 ルール1:良いことをすると、幸せポイント10P


 決定ボタンを押す。


 『ブー。もっと具体的な事柄を入力してください』


 えー、具体的って・・・・・・。

ん、じゃぁ。


 ルール1:電車で席を譲るをすると、幸せポイント10P


 譲るをするとって変だな、まぁいいか。

決定ボタンを押すと、今度はオッケーが出た。


 ルール2:お手伝いをすると、幸せポイント20P


 『ブー。誰のお手伝いか、もしくはどんなお手伝いかを入力してください』


 えぇー、細かいなぁ・・・・・・。


 ルール2:お母さんのお手伝いをすると、幸せポイント20P


 オッケーが出た。


 これ結構時間がかかりそう。

でもまぁ、通勤電車の時間つぶしにはいいか。

あと8個ね。


 ルール3:お父さんのお手伝いをすると、幸せポイント30P

 ルール4:落とし物を交番に届けるをすると、幸せポイント40P

 ルール5:後輩に奢るをすると、幸せポイント50P

 ルール6:友達にプレゼントをすると、幸せポイント60P

 ルール7:同僚の仕事を手伝うをすると、幸せポイント70P

 ルール8:お年寄りの荷物を持つをすると、幸せポイント80P

 ルール9:休日出勤をすると、幸せポイント90P

 ルール10:虐められている亀を助けるをすると、幸せポイント100P


 何度もダメ出しを食らいながら、なんとか10個のルールを完成させた。

次はマイナスポイントだ。

マイナスの行動をするとポイントが減っていくって事か-。

だったら、ぜったいやらなさそうなことを設定すれば良いよね。


 ルール11:人を殺すをすると、幸せポイントー10P


 『ブー。法を犯すようなルールは現実的ではありません』


 あら、そうなんだ。

意外とちゃんとしてる。


 ルール11:忘れ物をすると、幸せポイントー10

 ルール12:嘘をつくをすると、幸せポイントー20P

 ルール13:他人にぶつかるをすると、幸せポイントー30P

 ルール14:順番抜かしをすると、幸せポイントー40P

 ルール15:子供を泣かせるをすると、幸せポイントー50P

 ルール16:悪酔いをすると、幸せポイントー60P

 ルール17:終電を逃すをすると、幸せポイントー70P

 ルール18:仕事で失敗をすると、幸せポイントー80P

 ルール19:ズル休みをすると、幸せポイントー90P

 ルール20:亀を虐めるをすると、幸せポイントー100P


 ふぅー、やっとできた。

大変だったなー。

やらなさそうなことにしようと思ったのに、案外普通かもなー。

ま、いいか、GAMEだし。


 『すべてのルールを決定しました。

ENTERをタップするとGAMEがスタートします。

GAMEがスタートするとルール変更は出来ません。

よろしいですか? 』


 ENTERをタップ。


 わたしが、赤いうさちゃんマークのENTERのボタンをタップすると、ちょうど電車が目的地に到着した。

GAMEの画面がどう変わるのか気になったけど、そのままスマホを閉じた。

電車を降りて職場へ。

自分のデスクにつく頃には、GAMEの事はもうほとんど忘れていた。



 今日は週初めの月曜とあって、仕事は山積みだった。

わたしの仕事は経理なので、土日の接待費や経費の領収書を整理してシステムへ入力していく。

そこそこ大変ではあったけれど、昼休みもきちんととれたし、残業もしなくてすみそうだった。


 ところが、同僚の山本真理は違った。

山本が担当しているのは営業1課のエリート部署で、奴らが働けば働くほど山本の仕事も増えてしまう。

 

 「ケイコ-、まさか定時で帰るとか言わないでよね」

 「そのまさか」

 「えー、いいなぁ、わたしは1時間コースだよー」

 「そうなの? 手伝おうか? 」


 こういう時はお互い様なので、わたしは気軽にそう声をかけた。

山本は喜んで分厚い伝票のひとつかみをわたしに差し出した。


 「二人でささっと仕上げてご飯でも行こうよ」

 「ありがとう、ケイコ」


 予定より早く山本の仕事を完了させる事が出来た。


 「やったー! 終わったー! ありがとうケイコ」

 「終わったねー。

ごはん行こう、ごはん」


と、その時。

マナーモードにしたはずのスマホから通知音が鳴った。


 『ぴこん』


 帰り支度をしながらスマホを開けると、例のGAMEアイコンに通知の印がついている。


 『70ポイントGET』


 ん? なんで? まだわたし、GAMEはぜんぜん進めてないけどなぁ。

ちゃんと終了せずにいたからオートでGAMEが進んでたの?

ちょっと不思議に思ったけど、山本と食事に行くところだったので、帰ってからちゃんと見ればいいやとまたスマホを閉じた。

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