ハッピーバースデーの最終決戦

ちびまるフォイ

バチあたりな勇者

「ハッピーバースデー……とぅーみー……


 ハッピーバースデー……とぅーみー……


 ハッピーバースデー……ディア……自分……。


 ハッピーバースデー……とぅーみー……」


炎を吹き消そうとしたとき、広間のドアが開いた。


「見つけたぞ魔王! さぁ覚悟しろぉぉぉぉ!!!」


「ちょっ、ストップストップ!」


「なんだ命乞いか! そんなのは聞かないぞ!!」


「見てわからない?」

「なにが?」



「我は誕生日なわけ、おめでたい席なわけ。ね?

 普通、このタイミングでバトルする?

 もうこっちハッピーなバースデーなんだよ!」


「たしかに」

「わかってくれたか」


「今日がお前の命日だぁぁぁぁ!!」


「やめろって!」


魔王は勇者に待ったをかけた。


「お前ホント話聞かないのな」


「勇者にはときに相手の言葉をさえぎってでも勇敢さを示すときがある」


「明日でも良いだろ! 誕生日に戦う気分になれるわけ無いだろ」

「そっちの都合だろ」


「明日じゃダメなの?」


「明日は……レンタルを返却しなきゃいけないから」


「明日でもいいじゃん!! レンタルぐらいなんだよ!」


「バカいえ、装備のレンタル延滞がどれだけ高いか知らないのか!?

 最悪、勇者といえど首を切られるんだぞ!!」


「それこそ、そっちの都合だろ!」


魔王は勇者の装備を見てみると、

たしかに「伝説の鎧(レンタル)」とテープが貼ってあった。


「しかし……魔王、あれだな……」


「なんだ」




「……お前、いつもひとりで誕生日過ごしてるの……?」



「こっ、今年は、今年は我とお前でふたりだ!!」

「俺を頭数に含めるなよ」


「ひとりで何が問題なんだよ! 誰もかまってくれないから

 そもそもこの世界征服に乗り出したんだから!!

 むしろ、祝われでもしたら我の魔王たる理由が失われるわ!!」


「うわぁ……」


「なにか問題ありますかーー? べ、別に気にしてねーし。

 我、べつに他のやつに祝われても嬉しくねーし」


デカいテーブルに残るケーキのロウソクがもの寂しげにゆらめく。


「ハッピーバースデー魔王……。

 ハッピーバースデー魔王……」


「な、なんだ? なんのつもりだ?」


「ハッピーバースデーディア魔王……。

 ハッピーバースデートゥユ~~」


勇者は静かに歌いだした。

魔王は同様を隠せずに思わず闇の衣を脱いだ。


「貴様、勇者のぶんざいで魔王を祝うなど、なんのつもりだ!」


「いや、俺もお前の気持ちがわかるよ」

「なに?」


「勇者は世界を救うってみんなに期待されてさ……。

 それこそ、毎日毎日そればっか求められる。

 誕生日なんて祝っているヒマあったら、世界を救えってなじられるんだ」


「勇者……」


「誰も俺の誕生日なんて祝ってくれない。祝うことすら考えない。

 だから、俺もいつだって誕生日はひとりで祝っていたから気持ちがわかるんだ」


「勇者ぁ……!」


人間にも魔物にも理解されないと思っていた気持ちを

敵である勇者に届いたことで魔王は嬉しくて涙を流した。


「ああ、我も本当は寂しかったんだ。誰かにお祝いしてほしかった。

 この孤独な城に居座り続けるのも限界を感じて、最後にこのケーキで――」


「と見せかけておりゃああああ!!!」


勇者の一撃が魔王を粉砕した。



「ええ~~…………」



様にならない断末魔とともに魔王は死んでしまった。

勇者は剣についた汚れを拭き取りながら清々しい顔で世界を救った。


「死人に口なし!」


勇者免許を剥奪待ったなしの非道でも、それを証明する人がいなければ問題ない。

それは他人の家に押し入って壺を破壊して罪に問われなかった勇者のあり方だった。


勇者はゆうゆうと王のもとに戻った。


「王様、今、魔王を倒して戻ってまいりました! 世界は平和です!!」


「おお、さすがわしが見込んでサイトで募集して雇った勇者じゃ!

 お前なら必ずや魔王を倒してくれると信じていたぞ!」


「これでもう王様の命を脅かす敵はいません。

 これからは安心して眠りにつけますね」


「そうじゃな。魔王による暗殺に備えて近衛兵に監視され続ける寝室は

 どうにも安眠できなくて困っていたところじゃ」


王様はすっかりご機嫌人なって、勇者の手荷物が気になった。


「して、勇者よ。そなたのもっている小包はいったいなんじゃ?」


「ああ、そうでした。王様にお土産があったんです。こちらをどうぞ」


勇者は魔王の城から持ち帰ったバスデーケーキをドヤ顔で広げた。


「本日は世界平和の記念すべき誕生日となります。

 それを記念して私がこしらえました」


「おお、なんと気がきく勇者じゃ!!」


甘い物好きの王様は目を輝かせながらケーキにかぶりついた。








「き、貴様!! ケーキで王を毒殺するとは、いったい何ごとか!!」



のちに、勇者は王様を暗殺した不届き者として魔王以上にひどい死に方をした。

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