エリュシオンは跡形も無く……

ここは空想の世界でも、夢の世界でもない。

精神世界と呼ぶ。

私の感覚では、空想は意識下にあり、夢は無意識下にある。

ここは、そのどちらでもない。

妙な感覚だ。


この世で独り……。

生涯をずっと、このような形で過ごす人間は、私以外にはどれだけいるのだろう。

『本当の孤独』は、私から全てを奪っていった。

あまりの苦しさに、いつも、大量の薬を口の中に放り込んでしまう。

そのまま死んでも、別に構わない。

もう、どうでもいい。


ここは、紀元前に書かれた物語に出てくる楽園、エリュシオンではないか……。

そう思った。

妙に心地よい感覚だった。


大量の薬は、私から意識を奪う。

気が付いたときには何十時間が経過していて、なぜか、血だらけになっている。

心地よい時間を過ごしていたはずなのに、なぜか、血だらけになっている。

意識はあったのか、それとも、無かったのか……。

よくわからない。

でも、私が安らげる時間だったような気がする。


最近は……。

同じように大量の薬を使っても……。

エリュシオンにたどり着けない。

現実世界、ネットの世界、空想の世界、夢の世界に続き、精神世界までも奪われてしまったのか……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る