追憶のサイドミラー

休日の住宅地は静まり返っていた。

狭い道路を車でゆっくりと走行していた。

今は、初夏だ。

午前中の日射しは、とても優しくて暖かい。


その直前まで気がつかなかったが……。

自宅と思われる石垣の前に、人が2人立っていた。

小学生と思われる少年と、園児と思われる少女だった。

おそらく、この家に住む兄と妹だろう。

フロントガラスの向こうに見えた2人と、一瞬、目が合って……。

私は、そのまま2人の前を通り過ぎた。


次の瞬間だった……。

声がしたので、チラッとサイドミラーを見た。

すると、私が通り過ぎた瞬間に、2人は勢いよく道路に飛び出していた。

少年が楽しそうに子供用キックボートとともに飛び出し、少女がそれを笑顔で追いかけるという光景だった。

ドラマの回想シーンのように、全体がセピア色に染まった。

2人は私の後を追いかけているように思えた。

ゆっくり走っているとはいえ、私は車なので、どんどん離れていく。

まるで、自分の過去から遠ざかるように……。


思えば長い年月が通り過ぎた。

あの頃の記憶は、当然、残っているが、自分で蓋をしたから開けようにも開けられない。

もう1人の自分が問いかけてくる。

過ぎ去った過去に想いを寄せても、何の意味もないと……。

もういいんだ、忘れよう。

今の絶望と向き合うのが儚くなるだけだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る