転がらない石

ここは一級河川の河川敷……。

河口に近い場所にいる。


石は上流から下流へと運ばれていく。

大きな角石は、流れていく過程で、徐々に丸くなっていく。

体積も割れるなどして、小さくなっていく。

夏休みの自由研究で小学生が調べる範囲は、丸い石ができるまでの距離と時間だけだろう。

その石を人生に例えるところまではやらないだろうな……。


多くの人間たちが、この石のように、衰えながら丸くなっていく。

外見や性格だけでなく、身体や精神も……。

ただ、私のように、激流に流されると、大きな角石のまま、一気に下流まで運ばれてしまう。

そして、その形のまま、大いなる生命の源、海へとたどり着いてしまう。


子供は正直だ。

河原で見つけた丸い石を家に持ち帰ることはあっても、大きな角石を持ち帰ることはない。

温かみが無いからね。

自殺願望と殺人願望に支配された状態で、誰とも交わることなく流れ切るというのはそういうことなんだよ。


私が河原を歩いていたら、逆に、丸い石には興味を示さないだろう。

もし、そこで、大きな角石を見つけたら、エジプト神話に出てくるアヌビスのように、冥界を送るための手助けをするかもしれないね。


今日も、川は穏やかに流れを刻む。

それぞれの人生を暗示するかのように、上流から下流へと、たくさんの石が流れていく。

私のような転がらない石は、あまり多くないな……。

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