霧が無くなったとき、目の前には警察官がいる

「前、見えてます?大丈夫ですか?」


その言葉を聞くまでの記憶が無い。

私の症状は徘徊老人とは違う。

だけど、取っている行動は同じだった。


その日、冷たい雨が降っていた。

季節は冬……、しかも、ここは雪国だ。

私は、半袖・半ズボンで裸足だった。

思考は精神世界をさまよっているのに、身体は現実世界のまま……。

よく、そんな状態で交通事故に遭わないものだと、いつも思う。


生涯、誰とも出会えない。

生涯、この世に会話の相手とメールの相手が1人もいない。

どうして、こんな運命が降りかかったのか……。

そのことを思い悩むたびに、精神世界へと足を踏み入れてしまう。


「前、見えてます?大丈夫ですか?」


霧が無くなったとき、私の目の前には、数人の警察官がいた。

私は車に乗せられて、誰もいない自宅まで送られた。

この警察官は、私が天涯孤独で解離性障害の診断を受けていることを知っている。

なぜなら……、私が徘徊しているのを発見したのは、今回が初めてではないからだ。

まぁ、発見というよりも、誰かが通報したのだろうけど……。

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