巣立ち

人間は、大半が巣立っていく。

巣立つ前に死ぬ人もそれなりにいるが……。

動物のように『食われる』という過程が無いので、襲われることが少ない。

動物社会では、ほとんどの子供たちが巣立つ前に殺されて食われてしまう。


人間にとって巣立ちとは何だろうか……。

私は巣立ったのだろうか……。


日本では、親元を離れて、社会に出て働くことを『巣立ち』と表現することが多い。

私は10代からずっと頼れる人間がいないので、必然的に1人暮らしだし、必然的に社会に出て働いている。

でも、巣立ったという感覚が無い。

常に誰かに支配されているような感覚しかない。

私の感覚では、幼少期に食らった虐待・いじめ・育児放棄が影響しているように思える。


私は、家族なし、友人なし、恋人なし、結婚なし、子供なしで1回きりの人生を終えた。

この世に会話の相手とメールの相手が1人もいなかった。

ずっと精神が壊れていて誰とも繋がれない。

人間の巣立ちとは、親元を離れることではなく、仕事をすることでもない。

与えられた才能(外見・性格・身体的能力・知能指数(IQ))をフルに使い、育った環境を打破して、いかに社会適応するかではないだろうか……。

困難な状況に置かれないと、そういう感覚にはならないのかもしれないけど……。

私は何の経験も積めなかった。

どうにもならなかった。

だから、巣立っていくみんなの背中を見て、無念と絶望を感じてしまう。


みんな、巣立っていった。

そいつらの子供の世代も巣立っていった。

私は取り残されたまま、そいつらの背中を見ていることしかできなかった。

結論として、私は巣立っていない。

何もできずに、得体の知れない檻の中で、1回きりの人生を終えた気がする。

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