踏切で向かい合う(小学生編)

踏切警報機の音が鳴った。

同時に赤ランプが点滅した。

遮断機が下りていく。


私は、その前で立ち止まった。

ここは線路と道路が直角に交差している。

道路は片側一車線で、私が立っている側と対向車線側にそれぞれ幅の広い歩道があった。

線路は複線だった。

上り・下り、それぞれ1時間に10本くらいの電車が通り過ぎる。

ラッシュ時はその倍近くの本数になり、開かずの踏切と化す。

小学生時代、中学生時代、高校生時代と、まさか12年も、この踏切と付き合うことになるとは思わなかったよ。


向かいの遮断機の前には小学生の姿があった。

見覚えのある顔だけど、思い出せない。

たった1人で……、寂しそうな目をしていた。

半袖、半ズボンで、ランドセルを背負っている。

この子がなぜ半袖・半ズボンなのか、私にはその理由がわかった。

「寒くないの?偉いね」って、かまってほしい以外に、もう1つの理由がある。

傷だらけの身体を見てもらい、家での虐待を誰かにわかってほしいのだ。

時代が昭和じゃなかったら、きっと、誰かが気づいただろう。

当時、家での虐待は、しつけ……、学校でのいじめは、子供同士のやんちゃな遊び……、それで片付けられた。

そういう時代だった。

誰も助けてくれない。

手を差し伸べてくれる人は、どこにもいなかった。


電車の警笛が鳴った。

瞬間、下りの急行電車が突風を伴って、私の目の前を激しく通過した。

通過したと思ったら、今度は時間差で、上りの急行電車が通過した。

電車が去っていく余韻が残る中、踏切警報機の音が止まった。

遮断機が上がった。

小学生は、いなくなっていた。

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