縦列駐車の二台が恋に見とれる

真夏の午前中、私は運転席にいた。

エンジンを切って、路肩に駐車していた。

ここは閑散とした住宅地だ。

人通りもなければ、車や自転車も通らない。

自然の音しか聞こえなかった。


片側一車線の道路は、路肩の幅がやたらと広かった。

大型トラックでも余裕で駐車できるスペースがあった。

路肩が広いので、対向車線分も含めると、道路の幅は、計四車線分あるように思えた。

両側の歩道には、街路樹が等間隔で植えられており、道路を覆うくらいの背丈があった。

生い茂る緑葉には、夏の暑さを跳ね返すだけの力強さがあった。


私は、ボーッと景色を眺めていた。

すぐ目の前には、押しボタン式信号機と横断歩道があった。

交通量が少ないので、別にここを使わなくても余裕で道路を横断できた。

私のすぐ後ろには、軽自動車が一台、止まっていた。

運転席には、若い女性が座っていた。


私はどこに居てもこの世で独りだし、会話の相手とメールの相手がいないので、部屋の静寂に耐えられないとき、こうして車の中でボーッとしていることがある。

特に理由はなく、人々の生活空間で、人間観察に勤しんでいる。


いつしか、横断歩道前の歩道に、大学生と思われる男女がいた。

手を繋いでいた。

いや……、指を2本だけを絡めているだけだった。

2人は押しボタンを押した。

道路の信号が、すぐに黄色から赤になった。

2人は、ゆっくりと歩きだし、私の目の前を横切っていく。


私は、そんな2人の姿をジーッと目で追っている。

ただ、それを誰かに見られるのは恥ずかしいので、誰にも見られていないことを確認するため、辺りをキョロキョロと見渡した。

他に人影は無かった。

ただ、バックミラー越しに映った、後ろの車の運転手が、私と同じように2人の姿を見ていた。

釘付けになって見ていた。

なぜ、こんなところで駐車していたのかは知らないけど、何か羨ましそうで、それでいて切ない感じの……、深い想いが見て取れた。


お前は今、心の中で、何を描いたんだ?

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