U字溝のせせらぎ

雲一つない青空が広がっていた。

太陽も力強い。

U字溝には、水が勢いよく流れていた。

晴れた日に、U字溝にあふれんばかりの水が流れるという光景は、都会では見ることができないだろう。


ここは小高い丘になっている。

辺り一面、緩やかな斜度の棚田が広がっている。

ところどころに古い民家やアパートがある。

丘の上から先は、森が広がっている。

道路が通っているのは、この森と棚田の境界線まで。

道路と言っても、軽トラがやっと通れる幅しかない。


ここは私の生まれ育った町ではないけれど、少しばかり懐かしさを感じる。

私は都会のド真ん中や、超田舎、他にもいろんなところに住んだけど、これくらいがちょうどいいかな?


虫の音よりも、せせらぎの方が若干強めだ。

緩やかに続く坂なので、途中数か所で、U字溝の中で落差30㎝の滝が見られた。

U字溝の周りには、生命力あふれる新緑の草たちが背を伸ばしていた。


私は、その滝のすぐ横にいる。

小学生の頃、登下校時に、こういう光景はよく見ていた気がする。

ただ、あの頃は都会に住んでいたので、U字溝に勢いよく水が流れるのは雨の日だけだった。

今は、力強い太陽光の下で、絶え間なく水が流れている。

この音には森林浴に似た癒しの効果があるのだろうけど、残念ながら私には虚しい響きにしか聞こえない。

情緒あふれる自然に身を委ねても、虚しい響きにしか聞こえないなんて、私も随分と壊れたものだ。

今の私の感覚がわかるのは、こういう場所に車を止めて練炭自殺を図る奴くらいかな?


せせらぎは、ネット動画で、いつでも見ることができる。

だけど、そこにある自然の香りを味わったり、生命力を感じたり、流れる水に触れたりする行為は、その場所にいないとできない。

この光景の中にいると、いろいろと想うことがある。

生まれたときから、今まで生きたきた私……。

ずっと独りで生きてきた私……。

そして、最後は、こんな場所で、静かに眠りたいと願う私……。

何をどう足掻こうが、果てしない大きな流れに包まれて、そっちの方に吸い込まれていくね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る