初詣(ご縁がありますように……)

元々、神頼みには興味が無かった。

でも、あるときから、幸せな人生を送っている連中が行くのだから、行けばみんなみたいになれるかも……、行っていなかった私が悪い……と、考えるようになった。


初詣は、所詮、世俗的な行事でしかない。

神なんていない。

もし、いるのなら『不公平』という言葉は、この世から無くなるだろう。

自分自身の問題として、何かを変えたかった。

その、きっかけの1つだった。


深夜0時、その、約10分前……。

私は、この地域で最も大きい神社にいた。

もちろん、生まれ故郷でもなければ、何か特別に縁がある土地でもない。

それでも一応、今、暮らしている場所だからねぇ。

家族なし、友人なし、恋人なし、結婚なし、子供なしで1回きりの人生を終えて、人生設計と将来設計は崩壊した。

自暴自棄を経て、今という時間の中にいる。

転落事故より前は、一度も初詣には行っていない。

生活復帰した年から、毎年、行くようになった。

結局、それによって何かが変わったわけではないけれど……。


周りを見渡すと、若い人ばかり……。

ほとんどが高校生と大学生だ。

狭いエリアに、隙間なく、人が密集していた。

私は、その中の1つの列に並び、お祈りの順番を待っていた。


手にしたのは、五円玉……。

この年齢で、『ご縁がありますように……』は、さすがに人間のクズだなって思う。

キモイし、ダサいし、アホだし、クズだし、どうしようもない。

すでに、終わったことなのに……、未練と葛藤が死ぬまで続く状況を神頼みで変えようとしている。

ご縁があったことなんて人生において一度もない。

私の場合は、それ以前の問題なので、ご縁自体が、初めから意味がない。

あれと同じだよ、採用面接のとき、面接が終わって、採用が決まったあとに、当たり前のように差し出される身元保証人の用紙とね。

「家族は?」

「いません」

「友人は?」

「いません」

「誰でもいいんですが?」

「誰もいません」

採用が決まったにもかかわらず、その用紙が提出できないことのみを理由にして採用されない。

私が家族観を失った天涯孤独である以上、『ご縁自体が、初めから意味がない』というのはそういう意味だ。

同じ天涯孤独以外、対象にならない。

それ以外の人だと、どこかの時点で、必ず、壮絶な喧嘩や破談が待ち受けている。

それ込みのご縁は、この日本には存在しない。


深夜0時になった。

一斉に太鼓の音が鳴り響く。

花火の音、鐘の音、サイレン……、あちらこちらで、いろんなものが鳴り響く。

家族主義国家日本で独りで生きていると、何かと、こういう虚しいイベントに遭遇する。

ただ、正月はちょっと特別な感じがする。

さあ、今年も意味のないお祈りを始めようか……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る