勾留施設の脱衣所

ここは勾留施設である。

私に与えられた番号は21番、俗に言う、囚人番号という奴だ。

「21番」

この掛け声とともに、私は牢屋から出され、風呂場に行かされた。

勾留施設の風呂場は、世間一般と同じで、脱衣所と風呂が別々の部屋になっていた。

風呂は大浴場ではなく、大人1人が入れるくらいの、各家庭にあるような一般的な風呂だった。

ただ、ここは勾留施設なので、脱衣所も風呂場も、壁に窓が付いていた。

廊下に立っている看守が、こちらの様子をずっと見ていた。


私は脱衣所で、入浴の順番を待っていた。

面倒くさいから裸で待機していた。

時間切れで、前の奴が風呂から上がってきた。

全身イレズミのヤクザ屋さんだ。

私はイレズミをしていないが、ナイフや火傷の痕が酷すぎて全然負けていない。

長く居るとわかるけど、ここは、ヤクザ屋さんか、50歳以上のホームレスがほとんど……。

それ以外の人間は珍しい。

私は珍しい分類に入るかな?

見た目が可愛い系で、気が弱く真面目……、まぁ、頭ごなしにナメられるタイプだ。

ただ、私のトラウマと接触したり、あまりにも舐め腐った態度を取られると、誰が相手だろうとキレてしまう。

人生が壊れてからは、包丁を持ち歩くようになったので、キレて追い回したことだってある。

そのとき、相手が全力で逃げていなかったら、本当に刺していたと思う。


「その傷、何?凄い身体してるね?」

ヤクザ屋の兄ちゃんが私に言った。

「そう言えば、ここにいるヤクザ屋さんって、みんな、全身イレズミだよね?なんか決まりでもあんの?」

私も聞き返す。

ヤクザ屋さんのルールはよくわからない。

まぁ、彼らも私の人生のことはわからない。

脱衣所での会話は、いつもこんな感じであっさりしている。

風呂は週に2回だけなので、冬はいいんだけど、夏はね……。

あと、これはちょっと意外だったけど……、ヤクザ屋さんもホームレスも、脱いだ服をたたむ人が多い。

なんで、そんな生活習慣の人が、ヤクザやホームレスなんかやっているんだろうって思ったね。

どこか、厳しいルールの刑務所や施設にでも居たのだろうか……。

私は、衣類なんて籠に放り投げて終わり。

看守も指摘してこないので、ずっとそんな感じだった。

風呂に浸かるのは、ここでは至福の時なので、高揚感につつまれていた。

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