タバコの火は腕で消す

タバコは、歳を重ねるごとに軽くなっていった。

私は、マイルドセブン(メビウス)以外、買ったことがない。

ライトから始まって、スーパーライト、エクストラライト、ウルトラワンという感じになった。

私の学生時代は、スーパーライトより軽いのは無かったので、長い間、そればかり吸っていた気がする。

煙草を吸ったきっかけは、特になく、ただ、興味本位というだけ。

吸い始めたあとも、現在に至るまで、1度も依存に陥ったことはない。

宴会で会話の輪に入れないときに、1本加えるというような感じ……。

学生時代は1ヵ月に1箱、社会に出てからは1年に2箱か3箱なので、ほぼ吸っていないのと同じだ。

ただ、コンビニ直営店で店長していたときは、そうではなかった。

タバコの営業マンが、毎月、取扱メーカーごとに新商品を持ってやってくるので、「置く場所ねえよ、余ったら引き取ってくれるのか?」と会うたびに喧嘩しながら、なんだかんだでその新商品を置いていた。

私と同じ立場で仕事をした人ならわかると思うけど、その際、あの営業マンたちは必ずサンプルを1箱置いていくので、それがたまりにたまって、とんでもない数になった。

捨てるのはもったいないので、結局、全部、吸った。

ほぼ全種類と言っていいだろうか……、味見をした形になった。

エコ・わかば・ピース・ハイライトなど、あまりにも重いのは、吸わなかったけど……。

まぁ、私は、タバコとは、そんな距離感で付き合ってきた。

ただ……、他の喫煙者と私とでは決定的な違いがあった。

それは、タバコの火を消すときだ。

通常は、灰皿や水で消すと思う。

だけど、私は、自分の腕で消してしまう。

もう、通算で1000回以上、それをやっているので、腕全体が、すでに原型をとどめていない。

人生が壊れていく過程の中で、そういう形態が定着してしまった。

今も、タバコの火を消すときは、腕で消している。

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