あの日、私は……(東日本大震災、当日)
3月11日……。
あの日、私は牢獄の中にいた。
逮捕され、起訴されたあとの公判中という段階だった。
牢獄の中は、壁時計と、ポツンと設置された便器しかなかった。
用を足すときは、丸見えという状態だった。
ここには、私の他に、もう1人居た。
2人部屋だった。
私にとって、牢獄はとても居心地の良い場所だった。
もちろん、同居人には合う人と合わない人がいるが……、このときは、人格者の方だったので、普通に話ができた。
なんで犯罪に手を染めたのだろうか?と思えるくらいの人だった。
その日は、2人とも取り調べや移送はなく、1日中、牢獄の中にいた。
その瞬間……、私は寝ていたのか、全く気づかなかった。
しばらくして、その人が「さっき、大きく揺れた」と言ってきた。
どうやら地震があったようだ。
まぁ、地震なんて、別に珍しくないので、何気ない会話だけで終わった。
その日の夜、水を持ってきた看守が興奮気味に話しかけてきた。
「おい、とんでもない事になっているぞ。津波で街が沈んだ。テレビは、全部、津波のニュースになってる。」
ホントかぁ?
にわかに信じられなかった。
翌日、いつもなら午前中の早い時間に、新聞が回ってくるんだけど、全く回ってこなかった。
牢獄の中の雰囲気や聞こえてくる会話の内容から、何か重大な事が起きているのはわかった。
このとき、日本中の受刑者が似たような状況になっていたのではないかと推測する。
結局、隣の牢から新聞が回ってきたのは、その日の夜だった。
新聞の写真を見ると、本当に街が沈んでいるように見えた。
記事を全て読んだ。
「マジかあ。なんでこんなときに限って、ここに居るんだよ。ああ……、外に居たかった。今、どうなってるの?」
2人で残念がった。
私は3ヶ月後に釈放、もう1人は実刑になってしまい、刑務所に服役してしまった。
家に帰ってから、ネットで津波動画を見まくった。
そのときには、もう、世間の興奮はおさまっていた。
いつも通りの日常が、そこにあった。
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