たどり着けなかった 【詩】

今日は、年に一度の花火大会。

この地域で唯一の、真夏の祭典。

数千発の花火が夜空に咲く。


私はこの世で独り……。

すごく悩んだけど……。

でも、見に行かないと……という、使命感にかられた。

気がついたら、外を歩いていた。

会場までの距離は、時間にして30分だ。

少し広めの歩道を、一歩一歩、進んでいく。

周りを見渡すと、浴衣姿の若い女性たちがたくさんいた。

片手にうちわ、もう片方の手は彼の手に……。

断片的に聞こえる会話が、私の心臓を突き刺す。

あふれる笑顔が、私の脳を突き刺す。

幸せそうな2人の姿が至るところで見られた。


会場の河川敷まで、あと少し……。

最後の交差点で信号待ちをしていた。

続々と、人が集まってくる。

周りを見渡してみると、ありとあらゆる場所で恋する2人の姿があった。

幸せがあふれていた。


私は、ここで何をしている?

このまま進んでいいのか?

急に思考が止まった。

信号は、すでに青になっていたが、動けない。

後ろにいた人たちが、私を追い抜いて進んで行く。

進みたいけど進めない。

足が言うことを聞かないんだ。

人の背中が離れていく……。

次から次へと抜かれていく。

もう限界……。


私は流れに逆らいだした。

まるで、川を上る魚のよう……。

笑顔たちが、今度は正面から襲ってくる。

それを押し分けるように進む1人のクズ。

ああ……。


私は、再び、部屋の中にいた。

窓を二重で締め切る。 

カーテンで景色をふさぐ。

両手で耳を押さえて、そのまま崩れ落ちた。


しばらくして……。

その瞬間が来た。

ああ……。

轟音が私を貫く。

一発目の花火が上がったようだ。

私……、ダメだった。

無駄だった。

たどり着けなかった。

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