昭和 【詩】

ここは田舎の県道。

片側一車線から見える景色は、田畑、草木、点在する家、広大な森、と言ったところか……。

道沿いには古い木造小屋がある。

建てられたのは、おそらく、昭和の前半だ。

もはや、朽ち果てる寸前……。

この辺りの景色は、昔から変わらない。

変わったのは私の方だ。

ここを通るとき、記憶や感性とシンクロすることが増えた。

その原因が、この木造小屋だ。

小屋を含めた敷地には、草が無造作に伸びていた。

壁には古い看板が付いていた。

すでに何十年も前に亡くなっている女優と一緒に描かれている蚊取り線香の絵看板だ。

錆びついている。

誰も見ていないのに、この広告……。

商品が存在していないのに、この広告……。

取り残されている。

昔に戻りたいと思っているだろう。

私も昔に戻りたいと思うことがある。

可能性が存在していたあの時代に……。

ああ……。

今を刻む時間の中、取り残された現実に打ちのめされる。

私もこんな風に見られているのか?

こんな風に他人の心に存在しているのか?

いや、違う。

そもそも誰も見ていない。

ここを行き交う、たくさんの車と同じようにね。

存在を認識されることはない。

ただ視界に映っただけの……。

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