普段は真面目でおとなしい子だった

また、私の同胞が旅立った。

どこに旅立つかって?

死刑台から天国にだよ。

今日も殺人事件のニュースが流れている。

ほぼ毎日のように、あちらこちらで人が殺されている。

容疑者を知る人物が、よく口にする言葉がある。

それが……。


「普段は真面目でおとなしい子だった」


私の同胞だ。

本人だって、別に、好きで『普段は真面目でおとなしい子』というクズ人間に生まれてきたわけじゃないんだ。

いろいろと変える努力はしている。

だが、環境を変えたくらいでは真面目な性格は変えられない。

違う性格を演じ続けても、真面目な性格は変えられない。

大量の薬でセロトニンの量を増やし、脳内物質をいじって性格整形をしても、真面目な性格は変えられない。

憧れの、やんちゃ系の遊び人にはなれないんだよ。

なぜ、やんちゃな性格に生まれることができなかったのか?と、無念の想いが胸に宿る。

もし、そういう人間に生まれたのなら、友達もできただろう、恋人もできただろう、飽きるまでセックスもしただろう、結婚もできただろう、子供もできただろう、職場の上下関係も、その他の人間関係も上手くできただろう。


「普段は真面目でおとなしい子だった」


これは褒め言葉ではない。

だが、世間はこれを褒め言葉として使うケースが多い。

言われた側は、ある意味、死刑宣告を受けたのと同じ気持ちになる。

性格を変えなければ、まともな人生を送れないことくらい、この真面目系に生まれたのなら誰だって知っている。

私は、ありとあらゆることをやり尽くした。

結果、それが神の領域であることがわかっただけだった。


「普段は真面目でおとなしい子だった」


こういうことを言う奴は、だいたい普段じゃないときの、本当の素顔を見たことがない。

ないのなら、見せてやろうか?

見た瞬間から、まるで腫れ物を触るような扱いになり、誰も近づいて来なくなる。

私は、そんなルーティンを死ぬまで繰り返す。

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