ミレニアムカウントダウン(1999年12月31日、名古屋テレビ塔スカイデッキ)

もうすぐ、西暦2000年……。      

ここは地上90メートル、名古屋テレビ塔のスカイデッキだ。

私は、今、ここにいる。

生まれた街の夜景を見つめている。

ここには、過去に何度か来たことがあるけど、夜は初めてだった。

周りには、たくさんの恋する男女の姿がある。

私は、独りでここにいる。

『どうして、こんな所に来た?』と、自問自答してみる。

360度、窓の前には、恋する2人の背中ばかり。

肩を寄せ合う2人の後ろ姿が見える。

手と手を取り合う2人の後ろ姿が見える。

(1分前) 

弾むようなアナウンスが流れた。

歓声が沸いた。

苦しくて胸が張り裂けそう。

焦燥感で息が詰まりそう。

出会えない運命と人生を考えるけど、私にはどうすることもできない。

他人の幸せを目の前で見るためにここにいるわけではないのに、それが目的のように思えている。

私は馬鹿だ。

どうでもいいイベントなのに……。

それに参加したところで何が変わる? 

虚しくて切ないだけ……、わかっていたのに、ここに来てしまった。

『生涯一度のイベントだから……』は、ただの言い訳に聞こえる。

私は、申し訳なさそうに窓の近くに立つ。

独りは私だけかな?

(30秒前)

カウントダウンが近づいてくる。

戦争の世紀が、間もなく終わる。   

世界中が歓喜する。

新旧の世紀が交錯する。

私は、この瞬間に立ち会う。

(10秒前)

私は、ここで何をしている?

(9)

孤独な私が、何を歓迎する?

(8)

すぐ隣で、見つめ合う恋する人たち。

(7)

広がる街のイルミネーション。

(6)

豆粒みたいな下の人。

(5)

地上も、恋する2人であふれている?

(4)

私は、若い時間を無駄にしている。

(3)

未来の幸せにお祈りを……。

(2)         

誰かと一緒に来たかったな……。

(1)

さよなら、1900年代。

(0)

消えてなくなりたい。

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