第37話 諸葛孔明、お話する

「さすがは諸葛孔明。見事な計略であった」


 満面怒りに満ちていた周瑜であったが、コカトリスを撃破してエンディングを向かえると、おだやかな表情となっていた。

 周瑜は、「これからも麻理恵様を頼む」と頭を下げた。

 孔明としても意外だったようだ。

 三国の武将たちは、国が敵対してはいるが意外と仲はいいのかもしれない。

 魏の張遼と徐晃は、どちらも関羽と親交があったという。

 徐晃は、関羽からも「大兄」と呼ばれていた記述がある。


 そして、セッションが終わるとおしゃべりの時間だ。


「石化したの、サツキくんのPCだけっだったかぁ……」


 キャンペーンの計が成功しなかったせいか、ちょっと拗ねている。

 石化したサツキくんのコンバットメイジも、彩香とアン子のPCが生き残ったため、強奪した新薬で解除できたので無事研究所を脱出できた。


「敵、強かったよねー。全滅するんじゃないかと思ったわー」


 ペットボトルの紅茶をコップに注ぎながら彩香が言う。

 実に素直な感想である。


「でも、ふたりともダイス目がいいよね。俺は一発で石化しちゃったから」

「ふたりは石化させて、次のシナリオで救出する展開にしようとしたのに、残念」


 麻理恵ちゃんの恐ろしい側面を見た気がした。

 そんなことを「てへ♪」って感じで言う。

 あんな緊張感ある戦闘を仕掛けて、微笑んでいるところに凄みがある。

 しかし、セッションは緊張感がありつつも楽しかった。

 彩香のセッションのときも手に汗握ったが、あれこれ戦術を立てながら、ここぞというときにダイスをじゃらじゃら振るのも楽しいものであった。

 そして、ダイスに宿った武将たちの活劇や孔明と周瑜の知恵比べも、今となっては、すごいものを見せてもらったというところだ。

 その武将たちは、卓上で陣営ごとに分かれて車座になって座っている。

 なんだか微笑ましい光景だ。


「アン子ちゃんは、石化してくれると思ったのにな」

「そんな、残念そうに言わなくても」


 麻理恵ちゃんは親友だし、彼女のキャンペーンも気にはなる。

 それでも石化には抵抗しなければならない。

 手加減なしであったからこその体験であった。


「次は、サツキくんのGMの番よね」

「俺、そんなにGMうまいからちょっと尻込みするな」


 持ち回りセッションの次のGMは、サツキくんの番になる。

 どんなセッションをしてくれるのだろう?

 TRPGを通じて、アン子にはわかったことがある。

 GMをすると、その人の趣味趣向がセッションを通じて現われる。

 やっぱりなぁと思う部分も現われるし、そうだったのかぁという意外な側面も現われる。

 うざいと思っていた彩香が案外素直でかわいいこと、おとなしい女の子だと思っていた麻理恵ちゃんが際どい戦闘を好み、結構大胆だったこと。

 じゃあ、サツキくんがGMすると、どなるんだろうか?

 アン子としては、とても興味がある。


「せっかくだから、次にやるゲームを紹介したくてルールブックを持ってきたんだ。これなんだけど」

「あっ、きれいな表紙……!」


 サツキくんが取り出したのは、美麗な表紙のルールブックであった。

 どことなく、高級で気品がある雰囲気のイラストである。


「タロットカードもついているんだよ。ほら」

「わあ~!」


 サツキくんが並べたカードには、表紙と同じテイストのイラストが描かれていた。

 タロットカードということで、二二枚あるらしい。


「これ、どういうゲームなの!?」


 反応が早かったのは、彩香である。

 イラストやタロットカードという部分に惹きつけられたようだ。

 確かに、綺麗なイラストのタロットカードとか、乙女受けしそうな要素だ。


「『ブレイド・オブ・アルカナ』ですな。ヒロイックファンタジーがテーマのTRPGです」


 さっそく、スマホの孔明が解説してくれる。


「へえ、ファンタジーなんだ」


 アン子の世代でファンタジーと言うと、異世界転生とかゲームとかに出てくるライトなイメージが中心である。

 こういう表紙のイメージとはなかなか結びつかなかった。

 

「アルカナと言って、このタロットカードを過去、現在、未来に当てはめてキャラクターを作るんだ」

「すごい! 楽しそう」


 つまり、アルカナは他のゲームでのクラスや職業に当たる。

 タロットをモチーフにしたアルカナを組み合わせてキャラクターを作るのだ。

 好きなゲームを語るときのサツキくんは、本当にいい笑顔をする。

 彩香はうっとりしていて、麻理恵ちゃんは……何故かアン子に鋭い視線を向ける。

 これは、ライバルとしての視線だろうか?

 さっきまで一緒に楽しく遊んでいただけに、アン子の胸に刺さる。

 初恋なのに、友達が同じ男の子を好きになるなんて。

 譲ったほうがいいのかなぁとアン子は思い始める。


 自分は、サツキくんのことが好きなんだろうか?

 顔がいい男の子にミーハーな気持ちで惹かれただけな気もしている。

 もし、そうだったら、真剣に恋している人に譲ってあげるべきなのではないか。

サツキくんは、自分のことを女子として意識していないようだし。

 

 いや、だとしても。


 こんなに好みの男子は、他にいないのだ。

 誰かといちゃこらされたら、自分がどうにかなってしまいそうだ。

 TRPGについて語るサツキくん。

 いつもクールなのに、テンションが高くなってるとことか本当にかわいい。

 この気持ちが恋というものなのかは確信が持てないが、そんなのはどうでもいい。

 女子は男子に対して守ってほしいとか思うようだが、守りたいと思う。

 

「じゃあ、来週よろしく」


 ぽーっとしているうちに、サツキくんは帰り支度をしている。

 そういえば、そろそろ時間だ。

 たっぷり戦闘したのだから、暗くなる前に帰らねばならない。

 

「じゃあ、またね」


 玄関先で、サツキくんと彩花を見送る。

 で、麻理恵ちゃんはまだ残っている。


「アン子ちゃん、少しお話しようか」

「あっ、うん」


 なんだか今日の麻理恵ちゃんには、抗いがたい雰囲気があるのだ。

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孔明:ザ・ゲームマスター 解田明 @tokemin

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