第21話
飲み物を買って教室に戻ると、雪乃と果菜ちゃんが和臣君と斗真君と一緒に何かを話していた。どうしたのかと近寄ると、私が戻ってきたのに気付いた途端、和臣君が表情を曇らせたのがわかった。
そんな態度の変化に気付かないふりをすると、私は買ってきたコーヒーを手渡した。
「はい、和臣君」
「ありがと」
当たり前のようにコーヒーのブラックを手に取る和臣君に、コタ君が「へー」と感心したふうに言った。
「何?」
「いや、和臣ブラックコーヒーなんて飲めるんだな」
「あー、ご飯食べた後は甘いのとかじゃなくてブラックでスッキリしたくて。変かな?」
「いんや、そうじゃなくて。俺はそれ知らなくてさ、和臣の飲み物聞くの忘れたーって言ったら瑞穂が、和臣はコーヒーのブラックだって言うから」
「っ……そう」
「よく見てるんだなって話をしてたんだよ。な、瑞穂」
屈託なくコタ君は笑う。その笑顔に、何と返していいか分からずにいた私は、チラリと和臣君を盗み見た。
コタ君の言葉に、和臣君は驚いたような表情を浮かべた後で、ほんの少しだけ笑った。
その表情に、私の胸が締め付けられるように苦しくなる。
やっぱり和臣君が好きで、どうしても諦められない。
たとえそれを、和臣君本人が望んでいないとしても、私は彼に生きていてほしいと心から願ってしまう。
だって、私に幸せを与えてくれた和臣君が、この世界からいなくなってしまうだなんて、考えただけでも辛くて苦しくなる。
……もしかしたら、和臣君も――。
一瞬、思い浮かんだ考えを、必死に打ち消した。
それ以上考えてはいけない。だって、それに気付いてしまったら、きっと私はこのあとどうしていいかわからなくなってしまうから。
「あーでも妬けるなー」
「え……?」
コタ君はそう言うと、私の方を向いて、言った。
「だって、俺より付き合い短いはずの瑞穂の方が和臣のことよく知ってるなんて悔しいじゃんか」
「あ……そういう」
「バカ琥太郎」
「はあ、ビックリしたあ」
「え、え? 俺、何か変なこと言った?」
不思議そうに言うコタ君に、呆れたように果菜ちゃんは言った。
「さっきの言い方じゃあ、まるでコタ君があ和臣君にヤキモチ妬いてるように聞こえちゃうよお?」
「え、俺が? 和臣に?」
「そうだよお。コタ君が瑞穂ちゃんのことを好きなのかと思ってビックリしちゃったあ」
「好きだよ?」
果菜ちゃんの言葉に、コタ君は当たり前のように、言った。
「え……」
「琥太郎、お前……」
「え、あ……あああ!」
斗真君の言葉で、コタ君はようやく自分の発言に気付いたようで、頭を抱えてしゃがみ込んでしまう。
私はというと、どうしたらいいか分からず、困ったまま立ち尽くしていた。
「ご、ごめん! あの、俺……!」
「えっと……あの、友達の意味だってわかってるから! 気にしないで!」
泣きそうな顔で私を見るコタ君にそう伝えると、傷ついたような顔を見せた。
本当は、わかっていた。今の言葉の意味が、友達の好きなんてそんな意味じゃないことは。でも、じゃあいったいどうすればいいというのだろうか。
私は和臣君が好きで、コタ君は友達で……。
「俺……!」
コタ君が何か言いかけたその瞬間、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
私たちは気まずい空気を引きずったまま、それぞれの席に着いた。
買ったまま開けてなかったホットココアに口を付ける。
「ぬるい……」
温かかったはずのそれは、いつのまにかぬるくて飲めたものじゃなくなっていた。
アイスでもホットでも美味しいはずなのに、どうしてぬるくなっただけでこんなにもまずくなってしまうのだろうか。
私はそれを一気に飲み干すと、甘ったるい液体が口から喉へと流れていくのを、気持ち悪く思いながら感じていた。
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