第4章

第19話

 翌日、放課後の教室で、私は果菜ちゃんと雪乃と三人でお菓子を手に昨日の話をしていた。

 全てを話すことは出来ないから、和臣君に告白をしてフラれたということだけ。そして……。


「それにしても、和臣が瑞穂をフッちゃうなんてね」

「ほんとだよお。絶対うまくいくと思ったのにい」

「ごめんね……」

「なんで瑞穂が謝るのよ」


 思わず謝ってしまった私に、雪乃が呆れたように言う。お菓子を飲み込んだ果菜ちゃんも「そうだよお」と言って私の頭に手を伸ばした。


「ごめんねえ、私たちが和臣君にお見舞いに行くように言っちゃったからあ。瑞穂ちゃん、喜んでくれると思ったんだけど……」

「ううん、嬉しかったよ。ありがとう」

「それで? どうするの?」

「……諦めたく、ないんだ」


 顔を上げて言った私の言葉に、雪乃と果菜ちゃんは笑った。


「そうだと思った。じゃないと、あんなメッセージ送って来ないもんね」

「うんうん、いいと思うよお! 和臣君をやっつけちゃおう!」

「やっつけてどうするのよ」

「えへへ、間違えちゃったあ」


 間延びしたように話す果菜ちゃんの言葉が、落ち込んだ私の心を癒してくれる。

 事情を知らない二人を巻き込むのが、いいことだとは思わない。それも、諦めたくないなんて嘘をついて。

 本当は、和臣君に振り向いてもらうことはもう諦めていた。あんなふうに憎まれるようなことをして、それでも私のことを好きでいてほしいなんて都合のいいことは言えない。

 でも、それでも「和臣君が死なない未来」を諦めたくない。

 恋人としてそばにいられなくても、友達としてそばにいることはできるはずだ。そのためには、この二人の協力がどうしても必要だった。

 だから、私は二人に嘘をついた。


「諦めたくないから、協力してくれる……?」

「もちろんだよお」

「いいわよ」

「ありがとう!」


 昨日、二人に送ったメッセージ。そこには、和臣君にフラれたことと話を聞いてほしいことを書いた。

 優しい二人のことだから、そう言えば私の味方をしてくれると思ったから。


「それじゃあ、作戦立てましょう」

「あ、コタ君たちにもお願いしてみるう?」

「っ……」


 果菜ちゃんの提案に一瞬、雪乃の表情が曇った気がした。

 どうかしたのかと、不思議そうな顔をした私たちに、雪乃は慌てて言った。


「コタたち、は……やめときましょう。もしかしたら和臣から話を聞いているかもしれないでしょう? そうしたら、二人が板挟みになっちゃうわ」

「そっかあ。そうだね、ここは私と雪ちゃんでなんとかしなきゃだね」


 和臣君から……。たしかに、その可能性はある。そうなると、コタ君たちはどちらの味方につくか、というような選択を迫られてしまう。にそこまで迷惑をかけるわけにはいかない。

 それに、こんなときに何を言っているんだと言われるかもしれないけれど、やっぱりこういう話を男の子にするのはどこか気恥ずかしさもある。

 だから、雪乃がああ言ってくれて助かったのは、案外私の方かもしれない。


「二人とも、本当にありがとう」


 帰る準備を始めた二人に、私は頭を下げた。

 本当のことを話すことはできないけれど、無条件にこうやって私の味方をしてくれる二人の存在は本当にありがたい。

 こんなふうに、誰かに素直に頼れるようになるなんて、あの頃の私が知ったらビックリするだろうな。


「瑞穂?」

「瑞穂ちゃん? どうしたのお?」

「あ……ううん、なんか嬉しくって」

「変なのお」

「ホント変よ? 大丈夫?」

「うん、ありがとう」


 笑って見せた私に、二人がホッとした表情を浮かべたのがわかった。

 いつか、この行動の意味を二人が知ったとき、二人は怒るのかな。

 せめて二人が悲しまないでくれたら、いいな。

 帰り道、二人と別れた後で振り返ると小さな声で「ごめんね」と呟いた。

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