第17話
翌日、朝起きた時から頭がボーっとしていた。
それでも、昨日できなかった話をするために制服に着替えて学校に行く準備をしてリビングに降りていくと……百合さんに怒られた。
「瑞穂ちゃん! あなた熱あるでしょ! ほら、やっぱり熱い! これは38℃……ううん、39℃はあるわ。今日は寝てなさい!」
「大丈夫……」
「大丈夫なわけないでしょ!」
一喝する百合さんを見て、なんだか可笑しくなって笑ってしまう。
そんな私に百合さんは不思議そうに尋ねる。
「何を笑ってるの?」
「だって、百合さんってば。お母さんみたい」
「っ……」
何気なく言ったその言葉に、百合さんは一瞬驚いたような表情を浮かべた後、優しく微笑んだ。
「ほら、やっぱりだいぶ熱があるのよ。そんなことを言っちゃうぐらいにね……。学校には連絡しておくから、上で休んでいてね」
「はー……い」
仕方なく、二階に戻ると制服を脱いでベッドに入る。
思った以上にしんどかったみたいで、寝転がると身体が重い。
こうやっている間にも、一日一日とあの日に近づいていっている。こんなことで寝込んでいる暇なんてないのに。
そう思いながらも、気が付けば私は眠りに落ちていた。
次に目が覚めた時は、13時前だった。スマホをつけると、何通もメッセージが届いていた。
果菜ちゃんや雪乃が心配してメッセージを送ってくれたようだ。
そして、和臣君からもメッセージが届いていた。
昨日の雨で濡れて風邪をひいてしまったんじゃないかと心配してくれていた。
それぞれに返信を送ると、私は再び目を閉じた。
起き上がったせいか、頭がグルグルする。
もう少しだけ休もう、そう思った私が次に目覚めたのは、誰かの話し声でだった。
「……ね」
「……はい。……ます」
「……え?」
「あ、瑞穂」
「なっ……和臣君!?」
慌てて目を開けると、そこには制服姿の和臣君がいた。いったいどうして? ううん、そんなことよりも、私今パジャマ姿!
「きゃっ……!」
「瑞穂……?」
起き上がった身体を慌てて布団の中に潜り込ませる。
髪だってボサボサだし、リップすら塗ってないし、何よりパジャマだし!
「大丈夫……? どうかした? おか……百合さん、呼ぼうか?」
「大丈夫……。ちょっと、後ろ向いてて」
「わ、わかった」
近くにあったカーディガンを羽織ると、手で髪の毛を必死に整える。それ以上はしようがなくて、私は仕方なく和臣君に声をかけた。
「もう、いいよ」
振り返った和臣君は、困ったような表情で私を見ていた。
そして。
「これ」
「え……?」
「みんなからのお見舞い」
「ありがとう。でも、どうして和臣君が……」
「別に。家が近いから持って行けってだけだよ」
きっと雪乃や果菜ちゃんが持って行くように言ってくれたんだと思う。
私が、和臣君に避けられていることを気にしていたから……。
「そっか。……ね、和臣君」
「何?」
「聞いてもいい?」
「…………」
「最近、私のこと避けてるよね。なんで?」
私の言葉に、和臣君は黙り込む。
理由があるなら教えてほしかった。直すから、気を付けるから。でも……和臣君から返ってきたのは、納得がいく答えではなかった。
「別に、避けてないよ」
「嘘! だって……」
「たまたま、タイミングが悪かっただけだよ」
「本当に?」
「ああ」
でも、その言葉が嘘であることはどう見ても明らかだった。
だって、和臣君は――。
「じゃあ、どうして私の目を見てくれないの?」
「それ、は……」
「ね、私何かしたかな……。何かあるなら教えてほしい。直すから! 気を付けるから!」
「だから、なんでもないって! しつこいよ」
食い下がる私をあしらうように、和臣君は立ち上がった。
「俺、それ届けに来ただけだから。もう帰るよ」
「和臣君!」
「風邪、早く良くなるといいね」
「っ……なんで……」
そのまま、和臣君は部屋を出て行ってしまった。
私は、部屋に一人きりになる。
「どうして……。和臣君……。だって、このままじゃあ和臣君が、死んじゃう……」
頬を涙が伝う。
このままじゃあ、私は和臣君を助けることができない。
そうしたら、和臣君が……。今度こそ和臣君が――。
「今、なんて言ったの?」
「え……」
ガチャッとドアが開くと、そこには帰ったはずの和臣君が立っていた。
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